『青い花』 演劇「鹿鳴館」3重の人間関係と京子の演技が上手かった訳

青い花 5巻 (F×COMICS)

青い花 5巻 (F×COMICS)

青い花』5巻発売です。今回は三島由紀夫の原作から志村先生が『鹿鳴館』を選んだ理由を考察しようとしたのですが、原作読んでも結局よく分かりませんでしたごめんなさい。・・・・・・ただ自分の中でもまだまとまっていないのですが、人間関係の面で面白いと思った発見があるのでそれについて書いておきます。

京子が演じたのは朝子という女性。朝子は影山夫人でもあります。上田さんが演じた清原は朝子と昔関係があり、二人は好き合っている。あーちゃんの演じた顕子はこの記事には関係ないので省略します(以下簡略図)。

(影山→朝子)→清原


物語的には右になるとハッピーだよねという話です。いや、もっといろいろある話なんですが、この記事的にはこれだけ把握してればいいんで。

(影山→朝子)→清原  →→  影山 (朝子→清原)


朝子を演じながら、京子はこう思います。

父の大事な人も朝子のような女だったのだろうか


ここで初めて京子の家庭事情が明かされます。


  • 明かされる京子の家庭事情、その関係

京子の家庭事情が謎であったのは前に書いた通り(関連:『青い花』 ここまでの井汲京子さんの謎まとめ)。それが劇中、彼女の記憶から明かされていきます。

母と出かけるのは 好きだった
お母さんと たくさんの知らない人たちが 神さまにお願い事を しているのだと知ったのは もうすこしあとの話だ
私の知ってる神さまとお母さんの神さまはすこしちがうみたい

お母さんが こわれていくのを 私は止められない
お父さんのせいなのに お父さんも止めない
お父さんがきらい お母さんもきらい

うちには みっともない 人間しかいない

断片的に語られていく京子の気持ち。もちろん漫画だから加えて絵もあるわけですが、絵は過去の京子の反応のみ。それだけ。漫画にして2ページで「父親が離れていき、何かの宗教にはまるようになった母親が壊れていった」という重要な過去の説明とするのだから驚き。

それはさて置き、先ほどのように簡略図に京子の家の人間関係を当てはめます。父が不倫なのか既に家に居ないのかは分かりませんが実質的には以下で正しいはず。

(母→父)→?  →→  母 (父→?)

  • 京子自身の人間関係

演劇の前、京子は康に「婚約解消しようか」と言われる。

ここまで読むと分かるように、京子が中等部からずっと杉本が好きなのに康という婚約者がいるのは、自分の家が嫌いで居たくないという理由から。いわば「みっともない」自分の家から逃れるため康と結婚しようとしている。
京子は康に「婚約解消しないで」とすがるが、「そこまで都合のいい男にはなれないよ」と一蹴。5巻では初めて、康に対する京子の反省が語られる。

怒らせたらいけないひとを怒らせちゃった
たくさんたくさん傷つけて


ここで京子の人間関係を整理するとこうなる。

(康→京子)→杉本  →→  康 京子→杉本

  • 京子の演技はなぜ上手かった?

京子の演技が上手かったのは、上記3つの人間関係を意識していたからです。

京子の演技は非常に上手で「杉本先輩より上手いんじゃ」とも言われました。『嵐が丘』のヒースクリフというはまり役をもらった杉本クラスに京子が演じることができたのは、『鹿鳴館』という作品、その中の朝子という女性に自分の置かれた状況を重ねていたからでしょう。つまり京子がこの「3重の人間関係」を意識していたためと思われます。
その人間関係の重なりを意識したのはおそらく康ちゃんにフラレたことで自分の置かれた状況を客観視できるようになったからで、そうなると京子の演技が上手かったのは康ちゃんにフラレたことが原因とも見ることができるかもしれません(?)



京子の家庭事情という重要な事実が劇の流れからさらりと語られていくのは実に志村先生らしい表現でした。もともと省略が上手いと言われている志村先生ですが、この回はそれが特に際立ち、「鹿鳴館」の上演中に「京子の家庭事情」・「京子と康の関係」、そしてそれにも負けない「京子の強さ」も詰めて描いた29話は恐ろしく密度が高い。
家の複雑事情・康とのいざこざを抱えながら、顔に出さず演技する京子が愛おしい『青い花』5巻でした。