属性としての「黒髪ロング」と、そこから読み解く物語

ファンタズム (ウィングス・コミックス)

ファンタズム (ウィングス・コミックス)

私は別に黒髪ロングとか基本どうでもいい人なんですが(水星さんに怒られそう…)、あかりは別。彼女のこの長い髪には、意味があるのです。
(中略)
あかりのその髪は、言ってみれば彼女の不安や恐怖の象徴とも言えるんですよね。そして同時に、悪意に必死に抗う姿の象徴でもあるわけで、なんとも美しく映るのですよ。
やあ諸君、黒髪ロングの少女は好きかい?:雨隠ギド「ファンタズム」- オトコでも読める少女マンガ


『オトコでも読める少女マンガ』のいづきさんによる黒髪ロング評(?)が面白い。
引用部に「水星さんに怒られそう」とありますが、いづきさんを始め多くの方々が黒髪ロングのすばらしさに「まだ目覚めていない」のは、当然のことながら私の努力不足にも原因があると思われますので怒れるわけがありません。むしろ、黒髪ロングの布教により努めなければならないと改めて思い直しました。

さて、「黒髪ロングとか基本どうでもいい」と言いながらもいづきさんの評はとてもいい線突いてて、黒髪ロングはただの外観的特徴に止まらず、何らかの意味をもち、何らかの象徴であると考えてます。「あかりは別」とありますが、あかりだけでなく全ての黒髪ロングには意味があるのです。以下、黒髪ロングの意味するもの・象徴するもの・属性としての黒髪ロングについての考察です。

  • 突出した存在としての象徴

「黒髪ロング」は突出した存在としての象徴です。

    • 「女性として」突出した存在

すなわち超美少女。作者の画力と読者の好みはさて置き、基本的に物語における黒髪ロングのキャラは他人の視点から見て美少女という設定がなされている場合が多く、そのお約束に読者も慣れ、無意識に受け入れています。最近読んだ作品でいえば、吉住渉ちとせetc.』にも黒髪ロング美少女が出てきました。

ちとせetc. 1 (マーガレットコミックス)

ちとせetc. 1 (マーガレットコミックス)

    • 「学生として」突出した存在

「黒髪ロング」は学生である場合が多いですが、学生として突出した存在と言えば優等生を指します。例えば『ファンタズム』のあかりは友人から成績が普通なことを指摘され、「見た目できそうだよねえ・・・」と言われてしまいます。これは「黒髪ロング=優等生」のイメージを示しています。総じて「黒髪ロング」は学校において突出した女生徒つまり「高嶺の花」を象徴するものです。

ちなみに「黒髪ロング」が学生である場合が多い理由としては簡単で、黒髪ロングが制服とは調和するが普段着とは合わせにくいものだからです。これはリアルで黒髪ロングをなかなかお目にかからないことと共通した問題で、ファッション性は女性にとって重要な問題です。服にまで「黒」のかかる黒髪ロングが洋服を合わせづらいことは男の自分でも想像に難くないし、そうなれば女性が嫌がることも自然な流れでしょう。

もっとも黒髪自体が珍しい西洋から来た「洋服」が日本の黒髪ロング文化と合わないのは当然であり、文化保護の目的からもそろそろ和服に戻った方が(ry

    • 「人という枠組みから」突出した存在

アトラク=ナクア』比良坂初音さま・『ぬらりひょんの孫』羽衣狐さまに代表される、人外の存在である象徴としても黒髪ロングは機能しています(関連:カラーでもモノクロな羽衣狐さまの不思議 )。また人外であるかは別として『リバース-The Lunatic Taker』のようにバトルものでは単純に最強の存在としても扱われることがあります(『リバース』の情報はいずみのさんよりいただきました。ありがとうございます)。

ぬらりひょんの孫 1 (ジャンプコミックス)

ぬらりひょんの孫 1 (ジャンプコミックス)

リバース-The Lunatic Taker 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

リバース-The Lunatic Taker 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

  • 「排他的→謎」の印象

黒という圧迫感を与える色を、服にかかるまで伸ばしている「黒髪ロング」は、他者に対し近寄りがたい印象を与えます(逆にいえばいづきさんの言うように不安や恐怖から身を守る防御壁としても見ることができます)。これは表現としてだけでなく、リアルで黒髪ロングが希少となっている大きな原因の一つでもあります。

伝統的な黒髪ロング像では、やや古い物語世界における「名家の令嬢」なんかはもちろん黒髪ロングで、たいてい外界との物理的な接触を拒否しています。こういう「外界との接触を拒む」ことが黒髪ロングであることに表れています。

こういういわゆる「箱入り娘」は現代では設定しがたいですが、現代劇においては外界との「精神的な」接触の拒否、つまり「大人しい」・「暗い」といった客観的な印象、または他者との関わりを自分から拒否する「友達なんていらない」といった孤高の態度が黒髪ロングの象徴として挙げられます。『ファンタズム』のあかりもその特殊な事情から「今まで友達つくる気なかった」と言います。

こうして結果的に他者を排除してしまう、または能動的に他者を排除する「黒髪ロング」は、外界との接触を拒否したことから情報の欠如が生まれ、それがミステリアスな印象を与え、畏怖・恐怖される存在としても扱われます。


  • 「黒髪ロング」から読み解く物語

「黒髪ロング」の出てくる話には基本的なパターンというものが存在し、「黒髪ロング」から物語を読み解くことが可能です。
「黒髪ロング」の「他者との関わりを拒否する→謎の+突出した美少女」という設定から、まず「黒髪ロングの謎の解明」というステップを踏んで、その後に最終的な事件の謎・世界の謎の解明に物語をもっていくのが古典的な黒髪ロング話で、有名なとこで『羊のうた』や『月姫』秋葉ルートの話の運び方はそんな感じでした。

羊のうた 1 (幻冬舎コミックス漫画文庫 と 1-1)

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真月譚月姫 1 (電撃コミックス)

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そして、これ以外の物語もこの基本的なパターンを踏襲している場合が少なくないです。

例えば『アトラク=ナクア』は「黒髪ロング」を主視点としているやや特殊な例ですが、主視点といっても主人公の謎は残り、かつそれが世界の謎と深く関っているという点で基本パターンを押さえた作品だと思います。

また最近の流行作品ということで、『君に届け』にもふれておきましょう。先に挙げた基本パターンとは異なりますが、『君に届け』もまた属性としての「黒髪ロング」を押さえた物語です。

君に届け (1) (マーガレットコミックス (4061))

君に届け (1) (マーガレットコミックス (4061))

主人公の爽子は「黒髪ロング」であり、他者に認められる「突出した存在」であるはずの彼女が、実際にはクラスにおいて「貞子」と呼ばれる「排他的な」イメージを植えつけられていて、読者と風早など一部の人物だけがそのイメージのズレに気付いている構造をもつ作品です。その意味で『君に届け』は黒髪ロングイメージの移行を描いた非常に良くできた黒髪ロング漫画だと思います。『君に届け』のヒットした理由としては「登場人物が皆いいやつ」「王道を巧く描いたこと」などが挙げられますが、私としては主人公が「黒髪ロング」であったことが最大であると信じています。

最後に上に挙げた「黒髪ロング」の象徴するものを踏まえたとき、『ファンタズム』のラストは非常に納得のできるものになっており、物語として「黒髪ロング」のもつイメージを上手に利用した作品だと感じました。


・・・・・・ところで最近、漫画レビューサイトにおける自分の立ち位置(=黒髪ロング担当)が決まってきた気がするよ(いや、うれしいけど)


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