社会人百合の面白さと『オクターヴ』

かつて恋物語のメインは「身分違いの恋」でした。決して結ばれてはいけない二人が恋に落ちてゆく様はドラマチックです。ロミジュリです。ところが現代日本を舞台にした作品ではこの「結ばれてはいけない二人」が難しいです。格差社会と呼ばれ経済差はあるようですが、イギリスのように厳格な社会身分差は固定されていないからです。
ですが、同性愛ならそれが成立します。社会的に許されない愛。ここに百合の面白さがあります(同じことはBLにも言えますが詳しくないためふれません)。

さて、「結ばれてはいけない二人」のハードルは2段階あります。

 ①二人が受け入れる
 ②社会が受け入れる


必ずこの順です。でないとドラマ的に面白くないので。そして②が成り立たないから①を難しくしている構造です。


多くの百合作品は①に重きを置きます。どころか①で完結するものが主流です。ドラマ的に①の方が面白いというのもありますが、物語的に②のハードルがそう高くないのも大きな理由です。大きな山場(①)を乗り越えた後に小さな山場(②)を入れて終わるより①だけで終えた方が締まりがいいとの判断でしょう。

②のハードルが物語的にそう高くない理由として、主流派百合作品が「女学校の学生同士の恋愛」であることが挙げられます。まず学校は閉鎖的・限定された空間ですし、加えて学生同士で身分差は生まれにくい。大正時代のエスから始まり『マリみて』に至った今の物語的女子校イメージは、同性の恋愛の障壁となるものではありません。「そこに女性しかいないのだから、恋に発展してもおかしくない」空気があります(物語的にです、あくまで)。


その結果、百合作品における②は具体的には近しい友人2人に認めてもらえばOKというカンタンなハードルになってしまいます。もちろん友情か愛情かのせめぎ合いの百合では①のハードルが男女間の恋より高く、それだけでも十分に面白いです。しかし①が高いのは②が高いからで、②を描いた作品があってもいいのではないか?

長編百合作品を例にみてみますと、昨年アニメ化した『青い花』(既刊5巻)・『ささめきこと』(既刊6巻)はまだ①を越えておらず、先日4巻の発売された『GIRL FRIENDS』(既刊4巻)は4巻で①が完成。次巻で作品が完結ということで、メインの二人以外の話も入ることを考えると②のハードルはそう高くないことが予想されます。そしてこれらは全て「女学生同士の恋愛」です。


では②に焦点を当てた百合はないのでしょうか?……実は先に挙げた3作の他にもう一つ、現在連載中の長編百合作品があります。


オクターヴ 1 (アフタヌーンKC)

オクターヴ 1 (アフタヌーンKC)


アフタヌーンで連載中の『オクターヴ』。この漫画の面白いところは、1巻でもう①が完成、つまり二人が付き合っていることです。現在4巻まで出ているのでその後の②の方が長い。①:②の比は『GIRL FRIENDS』と逆になっています。なぜか?これは『オクターヴ』が社会人百合だからです。
社会人百合では前に挙げた2つノハードルを低くする要因(学校・学生)が働きません。当然ですが男もいます。つまり②のハードルは高い。そのためあえて世界を狭く、物語を短くすることで上手くまとめてしまう作品も多くみられます。


ですが『オクターヴ』は社会のハードルに真正面からぶつかっていきます。②のハードルが高いこともあって付き合い始めてからの二人のすれ違いも起こり、むしろ二人が付き合い始めてからが面白い。これは恋愛ものとしてみても珍しいと思います。
ここまで論じてきた内容から最先端にいるのが『オクターヴ』ということで、この作品が今後どのような方向へ向かいどのような終わりを見せるか、注目しています。