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『この彼女はフィクションです。』2巻:フーコ先輩への視点の"折り返し"

当ブログ大プッシュの『この彼女はフィクションです。』早くも2巻の発売です。ツイッターなどの反応を見ているとこの巻そして続く3巻は特にフーコ先輩の人気が高まった感がありますが、その理由として主人公であるユーリからフーコ先輩への視点のシフトが起こったことが大きいと考えています。


この彼女はフィクションです。(2) (少年マガジンコミックス)

この彼女はフィクションです。(2) (少年マガジンコミックス)

  • 各話検証

この彼女はフィクションです。』においてフーコの視点が初めて出て来たのは第6話(単行本2巻)のラストです。6話は文芸部の中にユーリの好きな相手がいると突き止めしかし特定まではできなかったミチルがその場の全員を消そうとし、その騒ぎをなんとか止めるという話です。この回はいわゆるラブコメである『この彼女はフィクションです。』には珍しく重苦しい空気で幕を引いているのですが、それがフーコ先輩の視点でした。ユーリ以外で唯一ミチルの正体とその危険さを知っているフーコは一連の騒ぎを見て「(危険な)『ミチル』ちゃんを止めなきゃ…!!」という想いからユーリとミチル二人の関係に能動的に関わり始めます。

続く7話ではミチルに悪気が無いことを理解したフーコとミチルとの仲が良くなり、それにより前話の重苦しい雰囲気も消えます。そして9話はフーコの家にユーリが招かれるという、ミチルのほぼ登場しない話です。この話もフーコの視点で幕を引きます。7話でミチルに安心したフーコの興味はミチルから、最も重要な問題であるミチルの探している者(=ユーリの好きな相手)が誰なのかということに移り、すなわちミチルからユーリへ興味の対象が移ります。6話の件から文芸部員の中にそれがいる、つまり自分にも可能性がある事実に思い至りフーコは困惑します。ここでの幕引きがフーコの視点でした。

飛んで13話。この前の12話ではユーリが主人公、フーコとミチルがヒロインの演劇をやることになり、そこでユーリとフーコのキスシーンの練習の際ミチルのせいで中断していました。その夜ユーリの家をフーコが訪ねて来たというところで13話に続いています。13話は冒頭からフーコの視点です。フーコがユーリの家を訪ねたのはキスシーンの練習のとき感じ、思い返せばそれまでも気になっていたユーリに対する自分の気持ちを確かめるためでした。この話はほとんどがフーコの視点で進み、最後にはフーコがユーリへの恋に気づきます。

  • 主人公視点からヒロイン視点への"折り返し"

ブコメでの視点のシフトについて『フィクション・ハンドブック』ではライターのみやもさん(ブログ:「身辺雑感/脳をとろ火で煮詰める日記」)が"折り返し"と呼んでいます。

それまでは眺められる客体だったヒロインAやBがドラマの主体を担うメインキャラクターにすえられるエピソードが増え、今度はヒロイン視点で主人公が対象化されてくるのである。(中略)ここで読者が主人公の目(男視点)に縛られたままだと「最近は主人公が空気だなー」と読み間違ってしまうが、さにあらず。主人公が"向こう側"に置かれただけではなく、同時に、女性陣を"こちら側"と認識させて、彼女らの内面描写に感情移入するよう、作品の構造全体が"折り返し"ているのだ。(p6-7)

かくして我々は作品の"折り返し"にあわせて「それまでは客体だったキャラクター」に入れ込み、主人公本人側からは見えづらかった彼の美点を眺めたり、恋のニブさにもどかしく切なくなったりして、世界の見え方を立体的に体験するよう促される。(p7)

この彼女はフィクションです。』は各話毎に見て分かるように、この"折り返し"(視点のシフト)がごく自然になされていること、そこに丁寧さを感じます。この"折り返し"により「それまでは客体だった」フーコ先輩への入れ込みが起こりましたが、2巻の段階でこれが起きたのはかなり早いように感じます。

比較的早い段階から折り返したならば、我々にとってはディスコミュニケーションをまたいで「本当はあいつもあの子のことが好きなのに!」というもどかしさで、"折り返し"以降の主体キャラを応援する流れになるだろう。(p9)

と、いうことで引用ばかりになって申し訳ありませんが、フーコ先輩大人気の一つの要素としてこの"折り返し"が働いたのだと思います。私は物語を見る視点はその物語への「とっかかり」になり、例えば主人公に感情移入しづらかった人たちが視点が変わることでその話を読みやすくなるという効果もあり、"折り返し"(視点のシフト)は引用したラブコメ的な意味以上の効果があるとも考えています。

さて、『この彼女はフィクションです。』の三人の関係は他の三角関係ラブコメとはやや異なり、普通なら報われないヒロインのポジションにいるはずのフーコ先輩が今まさに主人公の好きな相手です(この事実は2巻現在ユーリしか知らない)。「普通なら報われないヒロインのポジションにいるはず」と言ったのはミチルが物語の中心となる「やって来た」者だからで、(少なくとも途中までは)メインヒロインとサブヒロインの区別がつかないラブコメは例がありますが、この配置は珍しく感じます。

このような変わった関係の中この2巻でフーコ先輩の視点が生まれたことが今後ストーリー上でも大きく活きてくることが予想されます。というか活きてきますし10月発売予定の3巻ではまた新たな進展があるのですがそこはふれないことにしました。しかし6か月で3巻とは刊行ペース早いですね。3巻以降も楽しみな今年のラブコメ期待の新作です。