『常住戦陣!! ムシブギョー』 仁兵衛の沸点について


今週の1コマ(週刊少年サンデー48号『常住戦陣!! ムシブギョー』より)


いやー、これはすごいですね!大事件!大事件ですね!

ちょっといきなり過ぎたので初見の方にも分かるよう順を追って説明しましょう。まずは『常住戦陣!! ムシブギョー』という漫画から。


常住戦陣!! ムシブギョー 1 (少年サンデーコミックス)

常住戦陣!! ムシブギョー 1 (少年サンデーコミックス)


『常住戦陣!! ムシブギョー』はサンデー超で完結した『ムシブギョー』をタイトル改め週刊少年サンデーでリニューアル連載中の漫画。将軍吉宗の時代、江戸に巣くう巨大な蟲から人々を守るため設置された蟲奉行所、そこで少年・月島仁兵衛がお勤めをするというお話です。

およそ成人男性が一週間に必要な少年漫画分はこれと『ケルベロス』とで摂取できると言い張るくらいには好きな漫画で(※『ケルベロス』先週で完結したので枠が空いた)、少年漫画の条件である主人公がめちゃくちゃいい子・ヒロインが黒髪ロングの二点を押さえているのが何より大事なとこですね。

あらすじで分かるように『機動警察パトレイバー』の公務員・『結界師』の家業と主人公が働くサンデー漫画の系列(?)ですが、仁兵衛は『パトレイバー』の泉野明よりも若く、また『結界師』のように家業ではなく自らの意思で一人江戸に上りお勤めに励みます。こう言うとまるで朝の連続テレビ小説のように聞こえますが、そういった不遇な主人公が健気にがんばるお話よりはやはり少年漫画であることは、これからの説明で分かると思います。

単身上京し蟲奉行所の一員となった仁兵衛。しかし新入りの仁兵衛はそこで先輩方から色々といじわるを受けます。これは何も蟲奉行所ブラック企業だったということではなく、蟲奉行所のみんなまだまだ弱く頼りない仁兵衛を信頼できず、各人の考えから仁兵衛に辛く当っているのです。ところが仁兵衛は自分がいじわるを受けていることに、なんと気が付きません。理不尽な仕打ちもすべて先輩からの試練として受け止めてしまいます。自分の置かれた場を全く不遇な境遇と思わないのです(本当にブラック企業に入ったら大変そうだ……)。鈍感ながら熱く真っ直ぐな想いを貫く仁兵衛の姿を見る内に、やがて先輩方も彼を認め始めます。それは仲間だけに止まらず外部からやって来た長福丸、さらには敵として仁兵衛を利用しに近づいて来た密月までもその仁兵衛の真っ直ぐな想いに呑まれてしまいます。
今では長福丸や火鉢もすっかり仁兵衛のことが好きになってしまい、三巻では仁兵衛が誰にプレゼントを送るのか二人がこっそり見張るというエピソードまでありました。みんな仁兵衛が好きという点では同じでも、素直な春・ツンデレ的な火鉢・暑苦しいほどぶち当たる長福丸・静かに見守る無涯とそれぞれに態度の違いが見えるのが面白いです。

こうしたムシブギョーの今までの展開は「圧倒的にいい子である仁兵衛が人の悪意に気づかないままそれを呑みこんでしまう」とまとめてもいいかもしれません。

ところが今週になって初めて仁兵衛は人の悪意に気が付き、怒りの表情を見せます。最初の画像がそれです。

説明してきたような圧倒的いい子であるいつもの仁兵衛を知っている読者はたいそう驚いたことでしょう。ここで注目すべきはここまで悪意に鈍感であった仁兵衛が今回はなぜそれに気づいたのかという点です。答えはこの表情にあり。仁兵衛が怒っているのは所属する蟲奉行所をバカにされたからです。これまで仁兵衛が気づかなかった悪意は、あくまで仁兵衛本人が見下されたりバカにされたりしたものでした。ところが今回は自分だけではなく仲間をバカにされたという初めてのケースです。そうすると仁兵衛は自分をバカにされるのは気が付かないが仲間をバカにされると気が付くという仮説が立てられます。

少年漫画において主人公が「自分がバカにされるのは我慢できても仲間がバカにされると怒る」というのはよく見られました。ですが、「自分がバカにされるのは気づかなくても仲間がバカにされると気づく」というのは初めて見たような気がします。ってなんていい子なんですか〜。