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『ザ・ベストミステリーズ2011』読んだ

「俺と八〇〇メートル競走しないかい」
 ところが出て来たオン・ザ・ロックを一口飲んだところで、四番目の席で一人呑んでいた長髪の男からいきなりこう話しかけられて、私は耳を疑った。
「えっ?」
「聞こえなかったのかい?八〇〇メートルだよ、八〇〇メートル」
(中略)
「でも、どうして僕とあなたが競走しなくちゃいけないんです?」
 すると男は至極真面目な表情で答えた。
「人間の尊厳のためだよ」

(深水黎一郎『人間の尊厳と八〇〇メートル』)


ミステリのアンソロから気になった作家をあさろうと思っていましたが、一作目の深水黎一郎『人間の尊厳と八〇〇メートル』がいきなり面白い!舞城以降のメフィスト出身では一番の当たりかもしれないと今著作をあさっているところです。

ミステリには不思議などこか浮いた話に説明を付けて地に足を付ける機能があると感じています。この話も初対面の男から突然八〇〇メートル競走を持ちかけられるという不思議から一気に現実的な方向に落とし込みミステリとして完成します。その「意外さ」も見事ですが、しかし著者も言うように本書の趣はそれまでの「なぜ八〇〇メートルか?それがどう人間の尊厳と繋がるのか?」の方にもあると思います。男の語り出すロジックに酔う。これがミステリだろう、と。そうしてきれいに世界を完成させた後の読後感がまたいい。登場人物が何らかのドロップアウトを抱えて生きていることもタイトルと結びつきそれに影響します。

『ザ・ベストミステリーズ2011』他は相沢沙呼『原始人ランナウェイ』がいいboy meets blacklong小説。学園を舞台としたミステリを書き、軽妙な文体で重いテーマも扱う著者ですが、個人的には加えて丁寧な髪描写が素晴らしい。黒髪ロングのマツリカさんが出てくる度に髪描写が現れます。その点の満足度は短編とは思えないほどに保証できますね。デビュー作『午前零時のサンドリヨン』も好きで近々その続編も出るというから楽しみです。

あと読んでいないあたりでは平山瑞穂さんと辻村深月さんが気になったのでこのへんも少しずつ読んで行こうかと。それにしても短編のミステリははまるとすごく心に残ります。アンソロもあと何冊か読もうかしら。

ザ・ベストミステリーズ2011 (推理小説年鑑)

ザ・ベストミステリーズ2011 (推理小説年鑑)