『ロートケプシェン、こっちにおいで』読んだ!

黒ロン描写には定評があることで有名な相沢沙呼さんの新作『ロートケプシェン、こっちにおいで』を読み終えた(関連:『ザ・ベストミステリーズ2011』読んだ - 水星さん家)。第一作『午前零時のサンドリヨン』の続編に当たるシリーズ二作だが、これから読んでもそう悪くないはず。

ロートケプシェン、こっちにおいで

ロートケプシェン、こっちにおいで

相沢沙呼さんの文章がすごく好きだ。ここ三日間ずっとこの二作を読んでいてひどく心地よかった。この心地よさにはマジックという不思議が効いていたり酉乃さんの不思議な魅力が効いていたり、それからミステリの不思議も効いているんだろう。いろいろ合わせて完成されている。装丁もよく合っているので、この雰囲気が気に入った人なら間違いないかと。

相沢さんはいつも学校外部の社会の脅威ではなく、学校内部、教室空間の脅威を書く。色々な悩み。人との関係。外部の脅威からは学校で保護されても学校には内部の脅威がある。そしてこの方がよほど深刻なことも。学生が学校にいる時間は長く、年頃的にも学校が全てという感覚があるからだ。

『ロートケプシェン、こっちにおいで』のテーマは最短で言っていじめ。前作の一章「空回りトライアンフ」でも同じようにいじめを書いたが、それを今度は長編(連作短編)で扱う。長さとそして当事者の視点を入れたことでより深刻さが増す。そこで書かれるのは、誰かが悲鳴を上げているのに気づくことの大切さ。近くにいる一見元気そうな人も実は大きな悩みを抱えて生きているかもしれない。その可能性に気づくこと。そして手を差し伸べること。
タイトルのロートケプシェンとはドイツ語で赤ずきんのことで、つまりこれは狼の脅威に怯える赤ずきんを救おうとしているのだ。ただそれだけのことなのだけれど、ただそれだけがどれだけ難しいかをぼくは知っているし、それは多くの人も同じと思う。もちろん酉乃さんも須川も。前作より確かに強くなってそれに向かう。

前作『午前零時のサンドリヨン』は高校に入学した須川が黒ロン美少女・酉乃初と出会うところから始まった。実は凄腕のマジシャンで放課後にレストラン・バー「サンドリヨン」でマジックを披露する彼女に、須川はだんだんと惹かれていく。

前作はとにかく酉乃さんがかわいいラブコメだった(プールサイドでぼっち飯してる酉乃さんかわいい!)。酉乃さんは一見クールで、でも人と話すのが苦手で、でもマジックしてるときは活き活きとしてて、でも自分にはマジックしかないという不安もあって、そんな酉乃さんは誰かに髪を撫でてほしかった……。

――と、前作はラブコメの色が強かったわけだが、今作は上記の通り「狼」にどう立ち向かうか、とそちらに重きが置かれている。そこでミステリであることがうまく機能しているのはもちろん、先にも言ったように文体がすばらしい。読みやすいとか引っかかりがないとか、そういうのを超えてただ読んでいるのが楽しいポップな文体。シリーズ二作ということもあるのか、さらに洗練されて感じられた。

軽すぎると言われることもあった文章も筋をシリアスに傾けて全体のバランスがよくなっている。完成されていると言われた前作からさらに上の完成を見せたのではないか。最近表紙に黒ロンのいる小説をいくつかあさってたが、やはりこれが最高。