エリンちゃんかわいい!だけじゃない!!『獣の奏者』のすすめ

 えもりーさんオススメの上橋菜穂子獣の奏者』読んでました。いやはや、めちゃくちゃ面白いわこれ。1.5周して漫画版も買ってきて「漫画版もめちゃくちゃ面白いじゃねーかこれ!うおおお」となって最新5巻まで読んだわけでいろいろ書くよ。

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者(1) (シリウスコミックス)

獣の奏者(1) (シリウスコミックス)

  • エリンちゃんかわいい!

 『獣の奏者』はファンタジー小説の中でも現実世界とは別の異世界で展開するタイプのハイ・ファンタジーに分類されます。これは世界観から創り出すためにとどうしても長くなる傾向がありますが、そこを全2巻で(後に続編が刊行され現在では全4巻に)まとめ、大きな世界も時間も内包します。

 上橋さんの話は1エピソ−ドが短いのが特徴で(文庫本で10Pくらい)、長大な話から重要なシーンを取り出して見ている感じがします。こうすると集中力も続きますし、途中で固有名詞など忘れても戻りやすい。長大なファンタジー世界を凝縮するに相応しい方法と思います。ですがそうして凝縮されていると書かれない部分もあります。例えば主人公であるエリンの外見はあまり細かく描写されません。読者の想像に託される部分ですが、例えば

 うれしくて、エリンは、ぱっと笑顔になった。
 その表情を見て、おじさんは眉をあげ、笑みを浮かべた。(『獣の奏者 闘蛇編』文庫版p110)

 これが武本糸会さんの絵だと……。

 こうなります。武本さんの絵は今にも動き回りそうな子どもがかわいいです。髪の長さも原作ではふれられないのですが、エリンの成長と共にだんだん長くなって5巻のあとがきで見事な黒ロンに成長しているのでここからがクライマックスというころ。もちろんキャラクターの魅力に止まらず『獣の奏者』世界が原作に忠実に漫画化されていますが、王獣編まではエリンが10代の話なので何より絵があるのが特徴な漫画としては「エリンちゃんかわいい!」がいい入口になっていますね。

 上橋さんの小説は五感に訴えるファンタジーと言われますが、漫画で見るとすぐそれが分かり、原作の点と点を線で結ぶような丁寧な漫画版は筋が分かっていても何度でも楽しめます。

  • エリンちゃんかわいい!だけじゃない!!

 前章は主に漫画版のおすすめということで、ここからは『獣の奏者』という作品に対し思ったことなど。

 『獣の奏者』はファンタジーですがエリンには魔法や特殊な能力があるわけでなく、あくまで人として様々な問題に取り組みます。そこで重視されるのは「経験・観察・結果」という学問的なプロセス。決して人に馴れぬ孤高の獣・王獣に対しエリンは野生の王獣を見たことがあるという経験、そして母に付き従い闘蛇を見ていた経験を基に観察し、なんとかふれ合おうとします。その一連の流れはあっと驚くミステリのよう。エリンが観察能力に長けた子であることは序盤から明らかで、未知のものへの興味という子どもの心以上に細部を見て、考えます。

 そう、エリンは賢い。強い。同じ上橋さんの作品でも『精霊の守人』のチャグムは運命の無慈悲さに弱音を吐くのですが、エリンはそのときそのときの不幸には涙を流しても、運命を呪うことはありません。そうしたエリンの生き方の元にあるのが母との死別です。

 母をふいに奪われたときから、エリンは、いつまでも変わらずに続く幸せというものを信じられなくなった。
 変化は、ふいに訪れるものだ。変化が急に襲いかかって来ても、もう二度と、母を失った時のような哀しみは、味わいたくなかった。(『獣の奏者 闘蛇編』文庫版p252)

 エリンの強さはこうした生き方にあるわけで、エリンがこの達観したような生き方を10代にして選んだことは不幸なのかという点は少し引っかかりました。

 例えば『羊のうた』の高城千砂さんは「彼女の意識は17歳の少女とは思えない程老成している」と言われました。こうした千砂さんの強さは彼女が周りを拒絶し一人で生きていくために身に付けたものです。千砂さんがここまで強いことが読者にとっては悲しくも感じるという。

 ところがエリンには千砂さんのような悲しさをそう感じませんでした。それは色々書くと長くなってしまうのですが、千砂さんの場合は「最終的に救われる」だったのが、エリンはいつも「これでいい」と感じるからではないかと思います。ちょっとぼやけた落とし所になってしまいましたが、恵まれた境遇でなし鬱々したわけでない強いエリンちゃんの冒険がめちゃくちゃ面白いのです。

  • 最後に

 あと最後に一番大事なとこ。『獣の奏者』の好きなところは、エリンに何か(物語的な)目的があるわけでないこと。かと言って流されるまま生きているわけではなく、そのときそのときの問題に懸命に向かうことでそれが一つの物語となっているところです。不勉強故かもしれませんが、こういう話があったのかという驚きと感動でいっぱいです。