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吉住渉『ランダム・ウォーク』の再評価

 子どもの頃好きだった作品を観たら案外面白くなかったという話があれば逆もあるわけで。最近その逆に当たったのが吉住渉『ランダム・ウォーク』だ。

ランダム・ウォーク 1 (集英社文庫―コミック版)

ランダム・ウォーク 1 (集英社文庫―コミック版)

 吉住渉さんは昔から読んでいて今もいくつかの点で影響も受けているしその内エッセイなんか出したらぜひ読みたいくらい好きだ。が、『ランダム・ウォーク』はあまり印象の強い作品とは言えなかった。たぶん前作の『ミントな僕ら』が好き過ぎたのだと思う。

 『ランダム・ウォーク』は例えば同作者の『ママレード・ボーイ』や『ミントな僕ら』のようにいかにもフィクションといった突飛な設定のない、ただの恋愛漫画だ(わりと重要な前提)。

 主人公の優架は父親の教えで「いい恋愛をしていい女になること」を目指している。

 優架は恋愛に積極的で男関係が派手な塔子、恋愛には消極的で男と付き合ったことのない桂という恋愛観の異なる三人の女子でつるんでいる(この三人主人公制にすれば面白かったと思うのだが、視点が変わることによる読者の混乱を考慮して優架メインになったそうだ)。優架は二人の中間で、前の彼氏と別れて新しい恋を求めている。

 作中で優架は色んな男性と出会い付き合い別れる。全三巻(文庫版は全二巻)で主人公の優架が付き合う男性は計四人だ。作外の時間まで含めるとのべ六人。ちょっと驚く数字だ。

 引力に導かれたかのように魅力的な異性が現れ主人公に惚れるというのはけっこうな漫画に当てはまるのだけど、『ランダム・ウォーク』はそこに運命的に強い相手がいないのが特徴だ。たいていのラブストーリーが「運命的に強い相手(複数の場合も)が始めから居るか現れるかして、その人とどう向き合うか(最終的に別の人と付き合うにしろ)」という流れであることを想えばわりと特殊なことは分かってもらえるかと思う。

 かつそこには「ただただ恋愛を重ねていけばいずれ運命の相手にぶつかる」みたいな気楽さがある。作中で最後に付き合う相手がこの運命の相手とも限らないのでラストだってまだ途上とも考えられる。

 こういう「自由に恋愛を楽しみたい」と「どこかに運命の相手がいるはず」が全くぶつからずに共存しているのが『ランダム・ウォーク』のすごいところで、対象年齢がもっと上の雑誌になれば前者は多くあるが今度は後者とぶつかることが多いからだ。これは主人公が女子高生という立場と吉住世界のどこかファンタジックなパワーに包まれての結果ではないかと思う。

失恋を恐れるなよ優架
お互いとことん愛せる相手にめぐり逢うのはとても難しいことなんだ
この人がベストじゃないかもしれないと恐れて恋愛に躊躇してはいけない
結局別れる事になってもそれは心の糧になるから

 優架が幼い頃に父親に言われた言葉だ。「いっぱい恋愛していい女になる」は優架の信条であり、読者(りぼんなので小中学生女子?)へのメッセージでもある。もっと言うと「運命の相手なんて今いなくてもその内見つかるから今はたくさん恋愛を楽しみなさい」だ。他の吉住作品にも少女漫画全体にも通じそうだが、『ランダム・ウォーク』はただの恋愛漫画なので(前提)これがよりストレートに伝わる。

 要するにストレートに恋愛自体を目的としたポジティブな恋愛推奨漫画なわけだけど、こういう漫画を他に見たことがない気がするのだよな。