売野機子『同窓生代行』感想メモ

 売野機子『同窓生代行』表題作がめちゃくちゃ好みだったのでまとまりのない感想メモ。読んだ人以外は意味が分からないタイプの文章です。

同窓生代行─売野機子作品集・2─

同窓生代行─売野機子作品集・2─

 「あかねさすたぶん2限は間に合わない」。冒頭から朝起きてヒマしてる女子が布団の中で思いついた短歌から始まる。いかにも女子高生(大学生?)というテキトーさあふれる短歌がシチュエーションの説明も兼ねている。上手い。

 冒頭3Pの時系列について。冒頭リカが「Qui」と言うところ。覚えたてのフランス語を使っている感じが大学生っぽいとぼくは思ったのだけど、鉄男の言う「同窓会」がリカの同窓会であれば冒頭の3Pは3年半後の話(正確に3年半後でなくてもリカが女子高生である現在より未来の話)とも考えられる。もちろん現在とシーンは繋がっているので現在である可能性も大きい。これはわざと重ねた省略なのか単なるぼくの深読みなのかはっきりしない。

 「何かコメントは?」「さよなら」(11P)等つながってないセリフは冬目景を思い出して好み。省略としてもいい。

 12Pからリカの幸せに対する諦観。『獣の奏者』エリンは同じように「いつまでも変わらずに続く幸せというものを信じられなくなった」が、だからこそ不幸への迎撃態勢を整える。リカは幸せを恐れ、冷めている。

 友達の全身整形した人気アイドル・庭野野ばらに替わって中学の同窓会に出ることになるリカ。庭野に言われた3つのキーワードをいじめ関連と勘違いし「野ばらちゃんのカタキをうってやる」とあくまで他人事に考えていたリカは、同窓生代行の中で自分の高校生活を重ね始める。

 「興味外のことなんてなーにひとつ覚えてないよ俺」という竹丸が(27P)学級新聞係だった庭野の字が好きで覚えていて、庭野に会ってサインをもらうことで彼女が丹羽と気付く。「ボクあなたのファンでしたよずいぶん前から……」と言う竹丸に対する庭野の返答が「ありがとうございました」。「キレイなものが好き」で「キレイになれた」今の自分に満足している庭野の「忘れもの」に対する姿勢。

 幸せに諦観のあったリカが庭野の人生にふれてハッピーエンドに一歩を踏み出す瞬間を「思いつく行動」が「たいてい素直」な「太陽いっぱいの電車の中」というシチュエーションが後押ししているけれど、それに自覚的でそれでもいいと思えているリカ。

 「リカちゃんはモデルはもうやらないの?」「卵はホットケーキにして食べちゃったよ」「じゃあ私ニワトリだから新しいの産んであげる」の流れ。(モデルとして)「鳴かず飛ばずどころか孵化せずという」リカの自己評価(7P)・リカが朝に卵を使ってホットケーキ食べていること(10P)・庭野の中学でのあだ名がニワトリだったこと(21P)の3つがかかっている。

 ラスト。寝るエンドは読む方も安堵感があるし、安堵感があるからリカも寝る(『煙か土か食い物』とかね)。庭野には庭野の、リカにはリカの人生があるというのが良い感じ。