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『ミントな僕ら』と吉住渉の世界

 正月は妹者と吉住渉トークで盛り上がってた。たぶん少女漫画レーベルで活動している方では一番影響受けてて好きな御方。

こういう「自由に恋愛を楽しみたい」と「どこかに運命の相手がいるはず」が全くぶつからずに共存しているのが『ランダム・ウォーク』のすごいところで(中略)要するにストレートに恋愛自体を目的としたポジティブな恋愛推奨漫画なわけだけど、こういう漫画を他に見たことがない気がするのだよな。
吉住渉『ランダム・ウォーク』の再評価 - 水星さん家

 ……などと意味不明な供述をしていたが、他に見たことがないどころか前作『ミントな僕ら』の南野まりあだろーが(先月の自分へ向かって)。

ミントな僕ら (1) (集英社文庫―コミック版 (よ15-6))

ミントな僕ら (1) (集英社文庫―コミック版 (よ15-6))

ミントな僕ら』あらすじ。南野まりあと南野のえるは仲のいい双子の姉弟。ある日、まりあは初恋の相手を追って全寮制の森ノ宮学園へ転校してしまう。まりあに彼氏ができるのを阻止するため、のえるは自分も森ノ宮学園へ転校してまりあを元の学校に連れ戻すことを決心。ところが森ノ宮学園には女子寮にしか空きがなかった。女子として編入するなら、という条件を理事長に出されたのえるは女装し、姉と瓜二つの妹として森ノ宮学園に編入する――。

 何とも吉住渉らしいおかしな世界だ改めて。『ミントな僕ら』は実質的にのえるとまりあの二人主人公制をとっている。この内姉のまりあの恋愛観は『ランダム・ウォーク』優架に近い。高校生の優架に比べ中学生のまりあは幼いが、客観的には同じ道を、ぶっちゃけ取っ換え引っ換えする(※後半は苦悩もある)。
 だが『ランダム・ウォーク』の優架に作品世界が優しかったように、『ミントな僕ら』ではころころと好きな相手の変わるまりあの姿勢も肯定的に描かれている。ずっと強く想っていた相手を即忘れ、初対面の男に一目ぼれしてしまったまりあに友人の可南子はこう言う。

まりあ「あたし軽い?いーかげん?外見しか見てないのかな…」
可南子「そんなことないよ。あたしまりあの気持ちわかるよ。あんなかっこいい人にいきなりつきあおうっていわれたらそうなるのも無理ないと思う。結婚するわけじゃないんだから気軽につきあいはじめたっていいと思うし見ためで選んだっていいじゃん。見ためがいいのだって人間の長所のひとつだよ。それにそれまでの想いなんてどっかにいっちゃうほどピピッとくる出会いだってあると思うな」

 この「見ためがいいのだって人間の長所のひとつだよ」というセリフが印象的でよく覚えているのだけれど、こういうの暗黙の了解で普通はふれないよなぁ。おお、そこをさらりと。
 ところで見た目も長所と言う可南子が後に「顔さえ良ければオールオッケーと思ってたけどやっぱアホはイヤ」に至る成長も面白い。ミーハーだけどよく恋愛相談も受ける頭いい女子だ。

 『ランダム・ウォーク』は優架の恋愛がメインであり「ポジティブな恋愛推奨漫画」になっているが、『ミントな僕ら』はまりあの恋愛観が主に押し出されるのではなく、一途なのえるとの二人主人公制であったことが作品全体の印象を異なるものにしている。主人公でありグループにおける共通の秘密・悩みの種であったのえるの存在が鎹となるなど恋愛以外の関わりが多くあるためか、吉住作品の中では群像劇の動きが強い。コメディ調の作品であることもあって結果、あまり張り詰め過ぎず様々な恋愛観を盛り込むことに成功している。

 読み返すと初期から佐々は無理やり付き合わされてるのに放っておけない人のよさが出ていたり、当て馬のようにわずかの間に出て去るやつらも意外といいやつだったりするのに気付く。また双子の定番・入れ替わりや姉弟愛、扉絵の百合っぽさ(見た目黒ロン双子姉妹)などおいしいものを超盛っているのでぼくが好きにならないはずがなかった。


 最近『ミントな僕ら』から女装潜入ものに着目していくつか見ているのだけど、どれもいまひとつ及ばないと感じる。『乙女はお姉さまに恋してる2』以外は同じ文脈で比べると劣るなぁという印象が先に立ってしまう。
 その理由として『ミントな僕ら』は男バージョンでもけっこう活動して恋愛も複雑に絡んでくるという他の女装潜入ものにはない面白さがあり、どちらかと言えば金田一蓮十郎『ニコイチ』『ライアー×ライアー』に近いドキドキ感があると考え始めた。
 しかしやはりそれらの作品とも印象を違えるのは吉住渉の「軽さ」である。吉住渉はやたら軽いのがすごい。他の漫画なら数コマ数ページ数話を費やして演出されるドラマや葛藤をまるで自然なことのように1コマで流されたりもする。誰か頭のおかしなことを言い出しても(※必ず言い出す)大体仕方なく自然に受け容れられるし、主人公はわりと親類との仲がいいし、悪い場合でも妥協的な相互理解のベースはできている。なんとかなるなるようになる世界だ。

 読者の方でツッコミを入れたくなるほど浮いた吉住渉世界は実にポジティヴ。『ミントな僕ら』はそんな世界の中でそれぞれがそれぞれの道を歩みながら、最終的には皆「理想通りには行かないものだ」というところに落ち着く。このままゆっくりと良い方向へ進んで行くのかなと示した上でオトす最終話はすごく気に入っていて、遠くから4人を映したラストシ−ンは永遠の学園生活感がして10年以上経った今でも(え、10年以上経ったの!?)自分の中に生きている。著者の中でも特別好きな作品である。