誰もが少しの間だけ空を飛べる世界 『思春期飛行』

 第2次成長期を迎えた子どもが一時的に「飛べる」ようになるという世界の短編6話を収録。以前たまたま雑誌で見かけたときに気に入っていたのですが、ようやく単行本が出ました。

思春期飛行 (講談社コミックスキス)

思春期飛行 (講談社コミックスキス)

 こうした話は設定を活かそうとしてそれに話が引きずられてしまいがちですが、そうした設定に傾いたファンタジーになっていないことが上手いんです。「飛行」に引きずられ話が浮かずあくまで「思春期」の方に軸を置くことで少年少女の一時を描いた話として肌に感じられるものとなっています。

 「飛べる」は子どもの頃誰にでも来るもの。人によって時期に差があるもの。そしてそのときだけの一時的なもの。はっきり何かのメタファーと示されているわけではなく、もしかしたら各編によって、人によって異なるもの。
 そんな「思春期の一時のこと」が「飛べる」として目に見える形になったのが『思春期飛行』の世界です。誰にでもできるorできたことだから、別に空を飛べたからといってヒーローのように活躍できるわけではありません。それでも本人たちにとっては大きなことという姿勢が全編から感じられ、それが始めに言った設定に引きずられていないということにつながります。
 飛べる・飛べなくなるというのが「思春期の一時のこと」というイメージと合い、また少年少女が飛ぶ光景は絵で表現される漫画と合うことから、ちょっと設定を聞いただけで期待をもつ方も多いと思われますが、その期待に応える優れた短編集です。

 短編集として優れている点は各話に似たような話がないこと。最初の「パチンコ玉とスニーカー」こそ恋愛メインの話ですが、あとはどれも恋愛以外の別に軸を作って読者を飽きさせません。ちょうど『探偵オペラ ミルキィホームズ』が回毎に脚本を替え異なるテイストで視聴者を掴んだのと同じです。

 また子どもを描く上で親・大人との関わりはひとつポイントとなりますが、その点でもおばあちゃん大好きな子(#6「おばあちゃん子とワンピース」)・親との関係がうまくいっていない子(#5「勇者の娘と沼の怪物」)・親に対し悩みを抱える子(#4「りりと志央」)と様々を出していることで、「人それぞれの思春期」を描こうという著者の姿勢が感じられます。
 どれも、特に3・4・5話あたりの連続は好みですがベストを選ぶなら4話「りりと志央」。少し離れた幼馴染との友情、そして親との距離を描いた百合です。百合男子百合女子必見。
 2011年頃から(『思春期飛行』6話と同日発売の『青春★オノマトペ』1巻から)絵柄が変わって丸っこくなっています。個人的には前のかすれの残る絵柄が好きだったこともあって『青春★オノマトペ』ではなくこちらを推します。


 関連:「静かな救済」の物語 : 江本晴『思春期飛行』 - 水星さん家

 昔の感想がグーグル検索トップに上がってちょっと恥ずかしかったので短編集全体の感想(これ)で書き直しということで。どの話も同じではないので常に「この子にとっての飛べるって何なんだろうな」と考えて読むと楽しいです。