読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『WHITE ALBUM2』各ルート感想

 みんながゲーセンで不思議な女の子と出会って泣いている中、ゲームで不思議な女の子(複数)と出会って泣いていたんだよ、俺は。


 たいていのフィクションは「これを守っていれば悪いことにはならない」という倫理的な指針、あるいは受け手へのメッセージがこもっていて、例えば『ひぐらしのなく頃に』の後半は選択肢を間違えたことへの反省という形でそれが強かった。
 俺はそういう単純化された「軽い」世界が大好きである。『探偵オペラ ミルキィホームズ』であったり『STAR DRIVER 輝きのタクト』であったり吉住渉の漫画であったり。一つのことを言い続けて説得力を強めるやり方は『ディスコ探偵水曜日』にも通じる(これは軽くないが)。
 ところが俺は『羊のうた』であったり『オクターヴ』であったり、どうしようもなくうまくいかない「重い」話も好きである。『WHITE ALBUM2』はその方面の好みを突っ走った作品だ。
 なんで世の中はこんなにもうまくいかないんだろう。こんなにもいいやつらが、それなのに、そのために、どんどん不幸になっていく……。
 『WHITE ALBUM2』は他の三角関係ものが避けることで綺麗にまとめていたところを、避けず真っ向から踏み入った、いわば藪をつついた話だ。だがそれは現実的に避けては通れないわけで、だからこれは恋愛に特化した話でもある。


※ここから各ルート感想(当然ネタバレ)に入る。

  • 「introductory chapter」(以下:序章)

 全ルートに共通する話だが、この完璧な序章の基盤がなければ大きく強度が削がれたはずだ。短い中で会話・行動からそれぞれのキャラクターが見える傑作。二週目に明かされる真実の破壊力も大きく、本編の期待を恐ろしく高めた。
 この序章で与えられた命題のうち二つ。つまり北原春希の抱える複雑な想いと小木曽雪菜という爆弾の解体処理。さらに各編ヒロインの問題解決を加えた三つが「冬馬かずさ登場までの」本作におけるキーとなる。

  • 「closing chapter」(以下:終章)
    • 小春ルート

 小春ルートは最初に進めたが、その理由は一番読めると判断したからだ。「友人がフラれた相手を詰問するため近づいたことで逆に惹かれていってしまう」という展開は百合漫画で何度か見たもので、実際に話はその通り進む。が、結果として予想の軽く三段上を行かれた。それは一つには序章の下地があるからで、序章を体験したプレイヤーはその重みを感じている。そのへんをことあるごとに突いてくるのが武也たちだ。そうした友人たちの動きも本作の面白さの要素で、直接の関係者以外も活躍するのは小春ルートに限らないが、それが特にうまく回ることも小春ルートの大きな魅力である。個々には本当にいいやつらが混ぜるとどんどん不幸になっていくことが本作の精神を削られるところで、そこを抜け出した際のカタルシスというリターンはもちろん群像劇的にうまくいったときに大きい。
 小春が雪菜を想わせる境遇で、また春希に似ていることから序章当事者である二人が小春の問題に関わり、序章の問題と小春の問題を重ねて解決させたことが小春ルートのうまいところだろう。何より小春の問題を雪菜の過去と絡め、雪菜に自ら解体処理を行わせたことが小春ルートにおける最大の驚きで、雪菜の爆弾処理というテーゼからすれば最も優しい手段だったのではないか。
 春希・雪菜ともに似た境遇である小春を導く際の「物事を解決するのは時間である」は小春が年下であることと序章から三年の経過にがっちり噛み合っており、時間に対するある程度シビアながらも確実に希望を持てるエピソードだ。この時間に対する目線は後のルートの基盤となる。その意味でも重要なエピソード。

    • 麻里ルート

 千晶ルートは個人的満足度が高いだろうと直感が働いたので後に回し(後述)、次は麻里へ。率直な感想を言えば本作で最も精神的ダメージの小さいエピソードと感じたが、他のエピソードと比べ個人的満足度はひとつ落ちる。
 千晶のように同じ大学でも小春のように後輩でもない麻里は春希・雪菜との共通の接点に欠け、雪菜と麻里の問題を別個に解決しなければならない難しさを抱えた話だった。完璧な序章の下地からどこまで引き出せるかは全エピソードを通じた終章の一つのポイントであるが、その点で雪菜爆弾の処理がうまくいっていないことが他と比べた麻里ルートの落ちるところであろう。
 また麻里が冬馬かずさを想わせる人ならば、もっとかずさの問題を絡めてほしかったというのもある。とはいえ春希の側から見れば年も社会経験も能力も上の人との関わりで変わるということはありそうでほしい話。他のエピソードの満足度が高すぎるだけで充分面白いというフォローは必要だろう。
 序章(かずさの話)のトレースで進む麻里ルートは、しかしラストはシナリオを巧く利用した騙しを効かせる。それこそが麻里さんがかずさの代用品でない証なのである。その点では序章の下地を最後になって効かせてきたエピソードと言える。

    • 千晶ルート

 もともと終章の発表段階ではヒロインが増えたことに不満を感じていた。完璧な序章からはこの三角関係に終始してほしいという想いが強くあったからだ。
 しかし終章の最も早い段階で登場する千晶を見て、こういう人を織り交ぜてくるならもっと面白くなるかもしれないと急速に期待が高まった。千晶がポジティブなラブコメディに出てくるような自由なタイプ(冒頭で言った単純化された世界の住人タイプ)に見えたからだ。それは小春が雪菜、麻里がかずさを想わせる人であるのに対し誰を想わせるわけでもない千晶という立ち位置からも予想ができた。こういう「軽い」タイプを混ぜることで重い話の深みが増すのではないかと、当初はそういう期待だった。
 あー、ところで『アマガミ』のパッケージヒロインが絢辻さんっておかしいよね?はい、そういうわけで千晶ルートは当初の予想とは様相を変える。その意味では大筋想像通りだった小春編と違うのだけど、期待値を余裕で上回った点では共通するからすばらしい。小春ルートで示された「物事を解決するのは時間である」に対し、三年も経ったのに何も解決していないことを、千晶はそれは春希が休んでいなかったからと説明する。止まっていた時間を動かすのが千晶ルートだ。
 ところで俺はサブヒロインでは圧倒的に千晶派だ。「一緒に、堕落しようね?」に喜んで「はい」を押しそうになる程度にはこの子が大好きで(※ここに選択肢はない)その想いは始めから終わりまで変わらないどころか強くなったくらいだ。千晶ルートを終えた後にはこれが個人的満足度では本作ベストになるかもしれないと感じたくらいだ。まぁ、当然というべきか結果的にそんなことはなかったのだが。春希たちの人生において直接の関わりがない千晶のポジションは好き。主に高校時代の人間関係が続く本作で「大学を出るだけが人生じゃないんだよ」と去って行く千晶は当初の予想通り本作の深さを増している。その千晶が言う「ここまで引っ張ったんだ…どうせなら、最後まで突っ走って綺麗な物語を綺麗なまま完結させて欲しいな」はプレイヤーの想いとも重なるはずで、基本的には無関係ながらこの物語を見守る千晶の位置はプレイヤーの位置に近かったのではないか?
 千晶ルートも小春ルートと同じく、春希・雪菜の問題そして千晶の問題を一緒に解決しているが、その点では小春ルートよりすごい。他者から見た自分たちを見ることで止まっていた時間がやっと動くという、これ以上ない配役に痺れた。
 また千晶ルートは主導権を取って取られて二転三転がサスペンスフルでめちゃくちゃ面白い。千晶ルートの期待値が高かった理由の一つに新ヒロインでは唯一の同じ大学生であり、雪菜との直接対決が見られるのではないかと予想したことがある。それは予想をはるかに上回る形で実現され、小春ルートとは異なり「外野うっぜ」とばかりに突き進む展開の中で雪菜さんの格が恐ろしく高い。雪菜は宇宙人よりすごかったことが明らかにされるのだ!雪菜ルートの前に雪菜の格を再認識する意味でも重要な位置づけのエピソードだった。

  • 「coda」(以下:最終章)

 雪菜ルート・かずさルートを語るに際し忘れてはならないのが最終章が終章・雪菜ルートの上に乗っていることだ。麻里ルートでは「完璧な序章の下地からどこまで引き出せるかは全エピソードを通じた終章の一つのポイントである」と言ったが、それならば真正面から爆弾処理に向かう雪菜ルートがすごいに決まっている。加えて最終章は終章まで基盤にしたのだ。地盤が違う。ボリュームが違う。
 千晶ルートにも言った「止まっていた時間を動かす」ことに対し、雪菜ルートでは中学生のような恋からゆっくりと始める繊細な手段を取る。そして時には荒療治も必要とばかりに新たに仲間に加わる朋。雪菜さんの友達が増えるのはうれしいことだけど、彼女の小さな人間関係にはもう高校時代の関係者しか入れないのだなぁと思うと不安が高まる。

 サブヒロイン3人の、特に千晶編で雪菜の格を再認識させた上での雪菜ルートにプレイヤーは「これが、これこそが本当だ」と思ってしまう。これで終わるわけがないと、ある意味ここまで何も始まっていないことを、頭では分かっているのだけど「ここまでストレスかけてきたのだからこれが雪菜の幸せの道だろう」という方向についつい流されてしまう。その通りすべてが雪菜に集約し終章はここに正史に至る。序章の土台の上にさらに終章雪菜ルートを乗せ、最終章に向かう。そこで、かずさ登場……すげえな、ここまで前座だったのかよ。いや知ってたけど。

 麻里ルートでは麻里が春希にかけようとした携帯電話を壊し、番号を覚えていないために友人の携帯ではかけられないという事件があった。それに対しかずさは春希の番号を覚えていたという対比がしっかりされていることは注目だ。麻里がかずさに似ているということからこの対比は明らかに意識的なものだろう。かずさは友達少ないから覚えていただけという意見は無視。
 かずさが春希の番号を覚えていたことは、かずさが五年間ずっと春希のことを想い続けていたことに繋がる。黒ロン美人にずっと想われているとは羨ましすぎる。いや、そういう設定はたくさんあるけど、設定レベルでなくマジでそれを出してきたのは希少だ。かずさはピアノを通じて春希と繋がっていたというプラトニックな美しさが、美しいけど状況的に辛い。あ、そういえばこのゲームはHシーンのシーンリプレイ機能があるのだけど、かずさの髪を洗うシーンが入っていないのはどういうことなの……?
 まぁ、羨ましいだけでは終わらないわけで、終章では雪菜一つだった爆弾が二つに増える。最終章は序盤からすでにドロドロの予感だ。これが終盤まで続くのだから堪らない。私事だが家の壁が薄いので隣人に救急車かパトカーか呼ばれてもおかしくない騒ぎだった。

 進行に伴い爆弾が増えていく本作で雪菜ルートがとったのは爆弾同士をぶつけるという奇策、そしてこれ以外ない策。雪菜の「みんなが幸せでなきゃ嫌」という大いなるリビドーが導いた大団円は、それにしても様々な要素を巧く繋げたエピソードで、本作では本当に珍しいプラスの精神的ダメージが長く続くことで机に突っ伏して泣く。注目すべきはそれが春希の家族の問題まで届いていることだろう。このルート以外で春希の家族問題に踏み込むものはない。そういう意味でも完璧な大団円エンド。

 さて、普通の話ならこれを最後に、Trueの位置に持ってくるだろうが、本作はここで終わらない。大団円の雪菜エンドを見た後かずさルートは本当に辛いものがある。
 ここまでこいつらマジいいやつだなぁと仲間たちを見てきたわけで、特に雪菜ルートではそれがうまくまわるわけで……それが今度はみんな敵にまわる。これはキツいわ、これはキツいわ。
 俺は『Fate/stay night』の間桐桜とか『囮物語』の千石撫子とか、「こいつ捨てればいいんじゃね?」とわりと思ってしまった方なのだけれど、かずさは違うんだなー。だってかずさは運命の相手だから。本来なら両想いで一時は確かに通じ合った相手だから。この子を捨てるのは無理。ない。

 それでも、一度間違えてしまった道を戻るにはそれなりの代償が必要なのだ。そのそれなりを体験するのがかずさルートだが、それなりめっちゃキツい。これが終章という時間に対する責任で、小春ルートで示された時間に対するシビアな目線だ。そしてエピローグのフォローは時間に対する優しい目線。小春ルートおよび雪菜ルート、他のエピソードがあるからこのフォローも確実に信じられる。かずさルート単体で出されても一向に構わなかったが、あえて大団円エンドを横においてこれをメインに持ってきたことはすごい。
 色々なすれ違いがあったけど運命の相手と繋がるという美しい物語の、色々なすれ違いのあった間の責任も避けて通らないのがかずさルートだ。
 俺は冒頭で述べた通り「軽い」話が好きだけど、それはフィクションでまで辛い展開を見たくないというわけではなく、中途半端なことをやるよりは徹底して、やるならこれくらいまでやってほしかったんだなぁとしみじみ感じる。これは俺のために作ったのではないかと、そんな疑いが発生してしまう程に俺が好きな部分を最大限伸ばした話だ。プレイ中はいろいろ死ぬかと思った。
 最後にclosing chapterのパッケージがよくできているという話。この五人の視線を見るだけでそれぞれのキャラクターが見えてくるのだ。千晶は興味から見守る立場。麻里は仕事しか見ていない(ところに春希が入ってくる)。小春は憧憬。雪菜は憂慮。かずさは揺るがない一途な想い。