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冬目景『マホロミ』は『羊のうた』リメイク?

 さてさて冬目景先生が黒髪ロングストレート女子をメインに持ってくるのは『ハツカネズミの時間』以来でしょうか(※正確には昨年のアフタヌーンに掲載された短編『いつも、ふたりで』にも黒髪ロングの少女が登場しますが、あれは設定的にカウントできないため)。待っていました、待っていました。世界中の誰も待っていなくても俺だけは待っていました。
 この『マホロミ』深沢真百合さんがひじょーに『羊のうた』高城千砂さんタイプの黒髪ロング娘であり、もう見た目からして『ハツカネズミの時間』桐子よりも千砂さんで、高城の家に生まれなかったイフの千砂さんであると、そういった印象を受けております。で、『マホロミ』という作品自体もかなり『羊のうた』を意識している、踏み込んでしまえばリメイクと思われる節があるのですよ。

マホロミ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

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  • 『マホロミ』の『羊のうた』っぽさ・ぽくなさ

 『マホロミ』は建築物をはっきり意識した漫画です。冬目先生と建築物というと近作で『ACONY』がまず浮かびますが、実はこれに限らず大体の冬目作品は建物とか場所に関係深いです。『ZERO』は学校、『文車館来訪記』の文車館、『幻影博覧会』の探偵事務所、『ハツカネズミの時間』も機構とその支配する場所がメインでした。『羊のうた』にしても志砂の残した家が舞台として千砂さんはそこに強く拘っていました。
 『マホロミ』は「建物の記憶が視える」体質の建築科の学生・土神(にわ)東也を主人公とし舞台として以上に建築物自体に強く目を向けている点で過去作とはやや異なります。土神と同じく真百合さんも「建物の記憶が視える」体質で、これは今のところ二人の秘密です。女性の方は生来の体質であり、男性(主人公)は後天的に目覚めている点でも『羊のうた』高城家の血を思わせる設定でしょう。
 また土神の祖父は著名な建築者で、土神自身はほとんど祖父のことを知らないが、周りの人や特に真百合がひどく慕っている様子がうかがえ、真百合の回想で出てくる彼女の祖母や土神の祖父の様子からもそれが感じられます。さらに真百合さんは土神に祖父を重ねて見ているようで、この三人の関係も『羊のうた』を思わせます。
 と、ここまで似ている点のみを取り出して見てきましたが、『マホロミ』は雰囲気として『羊のうた』とはだいぶ異なります。
 著者が「絶望に向かってGOみたいな話を描きたかった」という『羊のうた』は閉塞感に満ちた暗い雰囲気の漫画でしたが、『マホロミ』の世界はむしろ『羊のうた』以降、『イエスタデイをうたって』などに似たコメディ色の強い明るい感じがします。真百合さんとは別のヒロイン・卯(あきら)も明るく親しみやすい女子で、内向的な不思議ちゃんの八重樫さんとははっきり違います。あ、どうやら卯も土神に好意を持っているようですが、『羊のうた』のようなキッツイ三角関係は見られそうにない感じで、この点も違いかと(←『ホワイトアルバム2』のやりすぎ)。
 また誰からも理解されない能力をそれでも活かそうという土神の姿勢は『羊のうた』にはないものでした。

「だって…なんか…振り回されてるみたいじゃん…できることならなんとかしてやりたいけど…そもそも旧い建物に魂が宿るみたいなこと他人に説明しにくいし。理解してもらえるとも思わないし。」(p197)

  • 深沢真百合の千砂さんっぽさ

 『マホロミ』世界が『羊のうた』よりずっと明るいのは確かですが、ヒロインの真百合に限ればどうも怪しいところがある、というのは見逃せないところです。真百合は祖母に「わたしが死んだらあなたを護る者はいなくなってしまう」ので「わたしが死んだらこの家を離れなさい」と言われており、また土神の祖父からは「おばあさまの代わりに、僕があなたを護ります」と言われます。二人が具体的に何を危惧しているのかは明かされませんが(身に危険が及ぶ建物の記憶なんてあるの?)祖母が死んでから真百合は祖母の命に背き祖母の別荘に一人住んでいます。この場所・想い出に拘る感じは実に『羊のうた』というか高城千砂さん。死んでから戻ってきたとこまで状況はそっくり。
 この過去について真百合は他人には(土神にも)話さないわけで、薄幸そうで謎めいた黒髪ロング美人とこれも千砂さん。千砂さんのように人を退ける空気はなく、優しいのにどこか近寄りがたい印象を受ける、始めに言った通り高城の家に生まれなかったイフの千砂さんであると思っていいんでないですかね、これは!


 ここまで設定が似通っていると祖母が千砂さんで祖父が一砂というふうに設定をいじって『羊のうた』の続編にしてみたら面白いのではないかと、いちファンとしてはそう思いましたが、さすがに今の設定のままではいろいろと矛盾が生じるのでまずその可能性はないでしょう。とはいえ現時点で『羊のうた』リメイクという印象が強い本作、今の冬目先生が『羊のうた』を描いたらどうなるかという観点で見てもよいはず。これからどういう方向へ向かうのか楽しみです(早く描いてくださいよの意)。



 ところでこういう少し困った表情で息をつく表現(画像赤丸)、冬目先生が多用していますね。画像は今週の週刊少年ジャンプ09号『ニセコイ』からですが、他の方もけっこうやってるのかしら。ジャンプもいつの間にか黒ロン多い雑誌になっていい感じです。今週は読切の『恋染紅葉』がよかったのですが千砂さん好きとしてはやはり『マホロミ』推しでー。