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「シェリル・ノーム」のモデル

 別冊少年マガジン3月号で石坂ケンタ『AKB0048 宇宙で一番ガチなヤツ!』が始まりました。規制されるほど影響力を持つアイドルとその光に照らされて彼女のサポートをする男の子と、まずは続きが気になるいい滑り出し。

別冊 少年マガジン 2012年 03月号 [雑誌]

別冊 少年マガジン 2012年 03月号 [雑誌]

 『AKB0048 宇宙で一番ガチなヤツ!』は今年4月から始まるTVアニメ『AKB0048』のスピンオフ漫画ですが、この監督をマクロスシリーズの河森正治が担当することで話題を呼んでいます。マクロスシリーズで観たのは『マクロス ゼロ』と『マクロスF』だけですが、この『マクロスF』に登場するシェリル・ノームはまさに「規制されるほど影響力を持つアイドル」です。

 シェリル・ノームのモデルはアメリカ映画女優にあると思われます。放送当時もアルトを引っ張って自由に遊ぶ姿が『ローマの休日』っぽいなーと思っていたのですが、何より彼女の特徴は意志の強さを示す太い眉です。「眉をしかめる」という言葉もあるように眉は顔の表情・感情を示す部位ですが、日本人は感情を表に出すのを嫌うこともあって眉をコミュニケーション的には意識していません。



 「意志の強さを示す太い眉」はアメリカ映画女優が打ち出しました。特に影響力のあったのは『リップスティック』(1976年)のマーゴ・ヘミングウェイと言われています。当時のアメリカ志向・映画メディアの影響力から80年代には日本でも石原真理子(現在は石原真理)が登場するなど太い眉が流行がありましたが、これは一時的で90年代後半から安室奈美恵の影響もあり細い眉が好まれるようになりました。既に述べた通り日本人は顔でのコミュニケーションを求めないという文化的な背景があり、結局は太い眉と合わなかったのだと思われます。

 今のアニメキャラクターを見ると他の部位では確かに差別化が図られているのに、眉はほとんどが細眉であることに気づきます。たまに太くても垂れ眉で温和なイメージの人が多いです。昨夜Twitterで「垂れ眉でない太い眉の女性キャラクター」を聞いたところ、『HELLSING』や『ストーンオーシャン』など明らかに生粋の日本人ではないと分かる作品が挙がりましたが、やはり「意志の強さを示す太い眉」は日本人的ではないのでしょう。日本の女性は眉を抜いたり剃ったりして形のよさと細さを目指しています。

 髪型やコスチュームを自在に変えることもファッションリーダーとしての女優の影響力を思わせ、これは外人女優に限らず昔から日本人アーティストも強く影響力があります。しかし、最後の「男をいいように使える」は非常に難しいです。日本のアイドルは恋愛禁止と言われるなど色恋沙汰は隠す傾向にあります。そもそも日本人に限らず恋人とどのような付き合いをしているかが見える状況はリアルでは難しいでしょう。そういったシーンが見られるのはつまり映画だったのです。もう10年前の映画になりますが『キューティ・ブロンド』(2002年)もこの系列で、女性の自立をうたった代表的な作品と思います。

 現代日本は「かわいい」志向がとても強く、セクシーさも武器にした女性の憧れる格好いい女性というのがなかなか現れませんでした。2004年に倖田來未が「エロかっこいい」と形容されましたが、それに相当する言葉がなかったのだと思います。今ではアダルト分野で活躍している女性が「セクシーさも武器にした格好いい女性」と感じますが、分野的に大衆的な支持は集めにくいと思われ、したがってそれも諸々含めて今は「女子力」に集っているように感じます。

 以上からシェリル・ノームのモデルは昔から日本人の憧れであるアメリカ映画女優にあるのではないかと考えました。ちょっと例示したのが昔の作品ばかりでしたが、現在も少女漫画誌でシェリルを主人公とした『シェリル 〜キス・イン・ザ・ギャラクシー〜』という漫画が連載されていることですし、これが既に古い価値観というわけではないはずです。シェリル・ノームにはさらに孤独な戦いとか這い上がりとかの物語がプラスされるわけで、これはどちらかと言えば男性の支持を集めやすいものでしょう。男性オタクの女性キャラクターへの感情移入の素地は最近できたものとも聞きます。サブカルチャー分野でこういうキャラクターが他にいるかは分かりませんが、男性の力が強い業界ですからそこで女性の憧れる女性像が打ち出されたのは珍しいのではと思います。「悪女」みたいな形ではけっこういたのかもしれませんが。

 『マクロスF』という作品自体はこのシェリルがパワーバランスを乱し、引きずられた感がありますが(途中までアルトが選択すると思われた三角関係はシェリルに主導が移り、劇場版では完璧にシェリルが前に出る)シェリルがここまで強いとそれも自然な流れかなと。実はサヨナラノツバサをまだ観ていないのですが。

  • 参考文献

顔の文化誌 (講談社学術文庫)

顔の文化誌 (講談社学術文庫)

 知識面での参考文献はこちら(全く映画観ないのに映画引いてるし)。日本人の顔の美意識の変遷が分かりやすく色々と勉強になりました。