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『WHITE ALBUM〜綴られる冬の想い出〜』小夜子ちんルートのすすめ

 つーわけでPS3版『WHITE ALBUM』を『WHITE ALBUM2』から遡ってプレイ&クリアしたのですが。いやー、これはめちゃくちゃ麻薬ゲーですね……とんでもないものをやってしまったよ俺は。『羊のうた』以来ではないかしら、精神を引きずる作品。


WHITE ALBUM-綴られる冬の想い出-AQUAPRICE2800

WHITE ALBUM-綴られる冬の想い出-AQUAPRICE2800


 で、どうも近々こいつがDMMで販売されるらしい。おおお、これで「うちPS3ないから〜」「うちテレビないから〜」なんて逃げはできなくなりましたね! ん?対象年齢「12歳以上推奨」と書いてあるけどPS3版は17才以上じゃなかったっけ?(ま、いいか)

 システムはとっても快適(簡素?)だしそんなに時間のかかるゲームでないので『WHITE ALBUM2』より手軽い。今から始める人はこれやっとけというのはもちろん、PC版既プレイ者にもすすめたいところ。というのは追加ヒロインの如月小夜子さんがすげーのよ。

 えーと、そもそもこのゲームのメインシナリオが「主人公・藤井冬弥が恋人でありアイドルである森川由綺と自分の主観的な距離が開いたことで他の女性に逃走してしまう」というのが根本にあって。そこで小夜子ルートがこのゲームの根底にある「森川由綺のモンスター性」を直に突いた初めての、したがって唯一のエピソードだからであります。

 ゲーム全編を通じて由綺のアイドルとしての才能は何度も語られる。分かりやすいところでクリスマスライヴでたくさんの人が集まるとか。緒方理奈シナリオでは理奈がセルフイメージを高く持ちそれを実現していくタイプの天才であるのに対し、トップアイドルである彼女の目から見た由綺の才能が語られる。理奈の話からプロデューサーである英二も由綺の才能を高く買っていることが判る。また篠倉弥生シナリオでは弥生の異常なまでの由綺への入れ込み様から(そして由綺以外には全く無頓着な彼女の姿勢から)由綺の才能は感じられる。

 このように森川由綺のモンスター性は作中幾度も語られる機会があり、また他のヒロインとの比較でもプレイヤーに判るようになってはいる。しかしそれは彼女のアイドルとしての才能とごっちゃになっていたために少し漠然としている。

 由綺の真なる恐ろしさは自分が恐ろしく強いことに対して全く無自覚ということだ。ただの女子高生からアイドルとしてデビューし躍進する、周りの世界が目覚ましく変わる中でも彼女は全く自分を変えず、どころかそれが普通だと思っている(そんな由綺が冬弥に全幅の信頼を寄せてくるというのが、プレイヤーとしてはちょっと恐ろしかったりする)。

 こうした由綺のモンスター性はプレイヤーが感じられるようになってはいるが、ストーリーはそこに直接切り込んではいかない。それがはっきり浮き彫りにされるのがPS3版追加ヒロインである如月小夜子のエピソードだ。

 小夜子は人気アイドルグループの元リーダーで、グループを卒業後アイドルとしての進路に迷走している。根本的な彼女の悩みは理奈や由綺と比べた才能の無さではない。多少他人の支えが要るにしても自分で自分を奮い立たせることのできる緒方理奈、そもそもそんなこと必要なく当たり前にこなせる森川由綺という天才を前に、小夜子はなぜ彼女たちがああも動けるのか分からない。

小夜子「あいつらって、なんであんなことができるんだろう」
小夜子「それに見合う努力はしてるんだろうけど…」
小夜子「自分が同じだけのレッスンを積んだって、同じことができるようになるとは思えない」
小夜子「そんな自分なんて…想像もつかない…」
(『WHITE ALBUM〜綴られる冬の想い出〜』小夜子ルート)


 これは効果としては他プレイヤーから見た小木曽雪菜を映し出すことで彼女の恐ろしさをはっきりと出し、その格を上げた『WHITE ALBUM2』千晶シナリオと似ている(というわけで千晶シナリオを高く評価していた俺が小夜子シナリオも同様に高く見ていることは当然のこと)。

 このように森川由綺のモンスター性を映し出すことはストーリー自体にも深く関わる。冬弥が由綺(の強さ)を分からず、由綺も冬弥(の弱さ)を判っていない二人のディスコミュニケーションの構造が、冬弥の他ヒロインへの逃げという形で現れるのが『WHITE ALBUM』のストーリーだからだ。もちろん冬弥の弱さを映すという逆方向からのアプローチも彼が全編を通してほとんど積極的なアクションを起こさないことから行われ、その点に関してはプレイヤーは充分に理解している。

 が、効果という面に限らず、ひどくストレートに弱音を吐く小夜子が単にめちゃくちゃかわいいというのも、もちろんある。例えば彼女は一度ゴシップな話題で週刊誌に採り上げられる。それを受けてさんざ叫びわめいた揚句の彼女の反応がこうだ。

小夜子「もう(アイドルをやめて)お花屋さんやる〜〜〜っ」
冬弥「どうしてまた唐突に」
がっくりと肩を落としたまま、小夜子ちゃんはテーブルにあごをのせた。
顔のすぐ隣で緑茶が湯気をあげている。
小夜子「真心をこめた花ならお客さんも喜んでくれる」
小夜子「口汚くののしったりしない」
小夜子「お花屋さんやるの…」
テーブルに顔を全部押しつける。
そのまま黙り込む。
(『WHITE ALBUM〜綴られる冬の想い出〜』小夜子ルート)


 わたしのお花畑〜……と、はじめて聞いたわ「お花屋さんやるの…」とか! まぁ、ここまでストレートに弱音を吐く子というのは他作品でも珍しい。音声付きだからちょっとくどく感じる人が出るんじゃないかレベルに彼女は挫け嘆く。それをこの作品に出したことで森川由綺のモンスター性が際立ち、冬弥は情けない小夜子が由綺に立ち向かうのをサポートすることで由綺のモンスター性を直に見る。「そうだよね。あの子やばいよね」というプレイヤーの気持ちとして至極妥当なこのエピソードの配置は、いわゆるトゥルーEDのような安心感がある、一つあってほしいエピソード。つまり極端に言えばこれがトゥルーEDなんだよ!(由綺EDはどうした)

 思うに『WHITE ALBUM2』に足りなかったのはこういうダメダメな子ではないか? スペックが高すぎるのよ、みんな。何年か後にリメイクされる際には小夜子のようなヒロインが追加されるのでは、とも感じる。で、その中で冬馬かずささんだけはピアノと美貌という武器だけが極端に磨かれそれ以外はからきしダメな人として書かれており、そんな彼女と彼女が自分で立ち上がるエピソードが俺は一番好きなのだ(あれ?いつの間にか『WHITE ALBUM2』の話になってる?)