『となりの怪物くん』 夏目あさ子2つの成長

 『となりの怪物くん』で検索してくる人が多いので、ちょっとまともな感想をあげることにする。前のはこれ(あさ子のかわいさに溺死しろ! 『となりの怪物くん』 - 水星さん家)で、見事なまでに「あさ子さんマジかわいい」しか言っていない。


となりの怪物くん(9) (デザートコミックス)

となりの怪物くん(9) (デザートコミックス)


 かわぐちかいじ氏は2009年冬の四季賞で、四季大賞作『ライオン』に「野生とインテリジェンスの共存」という評を残している。「文学と科学の親和」と言われた池澤夏樹氏の『スティル・ライフ』にも似たものを感じたが、『となりの怪物くん』はそれをラブコメでやっている漫画だ。
 シズクは知性に、ハルは野生に、それぞれ極端に偏っている。知性に傾いても野生に傾いても、恋愛からは遠ざかるのだろう。逆側に傾いていた目盛が徐々に中央へ戻るように、二人はそれぞれに経験を経て、やがて近づいていく。

 『となりの怪物くん』はこの二人の関係が中心にあるのだけど、周りの奴らの動きもよく見え、群像劇としても面白い。特に夏目あさ子さんがマジかわいいので、9巻までのあさ子についてまとめようと思う(……あれ?)。


 以前書いたのが4巻時点で現在の最新巻は9巻。この間にあさ子は二つの成長を遂げている。

 8巻ではシズクたちが二年に進級し、後輩としてヤマケンの妹・伊代が出てくる。美人だけどバカという点はあさ子と同じだが、ちゃんとタイプが違うのが面白い。ヤマケンまわりの海明のやつらにとっては伊代は「ヤマケンの妹」で、女として見られていないが、ササヤンまわりのやつらは伊代を美人と見て対応に困る様子も、『となりの怪物くん』のキャラクター造形の巧さを感じさせる。

 この伊代があさ子先輩を敬い慕うようになるのだが、懐く後輩ができて、先輩であるという自覚があさ子の成長を促す。伊代は兄のヤマケンを恐れていて、9巻で怒られそうになるところをあさ子がかばう。ここにヤマケン苦手だったあさ子の、立場による成長が見られる。それと美人に敬われる美人ということで、あさ子の美人格が上がったのも見逃せない(※プライドの高い伊代に「伊代よりかわいい人はじめて見た」と言われる)。

 もう一つは経験による成長で、あさ子は7巻で失恋をする。それまでの恋に全力疾走するあさ子も当然かわいかったのだが、突き放された後の憂いはさらに美しく感じさせて、そこが伊代の尊敬を集めたのだけど、それだけではない。

 そもそもあさ子が年上の男との恋愛をリアルに考えていたかはちょっと疑問で、みっちゃんさんは全力で押しても応じてはくれないが決して突き放すこともない。そういう距離感にあさ子は安堵していたのだと思う。みっちゃんさんへの想いは、自分のことを好きにならない相手としか安心して付き合えない今までのあさ子の、延長でしかなかったのではないかと。

 9巻であさ子はササヤンに言い寄られる。ササヤンはあさ子が初期から素の自分を出せていた貴重な男で、彼と今後どうなるかで「自分のことを好きにならない相手としか安心して付き合えない今までのあさ子」の殻が壊れるのかもしれない。つまりあさ子はもう一段回成長すると踏んでいる。

 あと男ではヤマケンがかっこいい。全く可能性のないところになんとかスキを見出すハイレベルな駆け引きは素直に感心するし、どう見ても当て馬で本人も当て馬と分かっているのに向かうのもかっこいい。同年代では頭もよく駆け引きもうまいが、年上の優山は苦手で、でもそれを見せまいという、無駄に高いプライドを維持する努力がすてきだ。