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日本刀の様な黒ロンがステンレスの様なピアノを斬る 『四月は君の嘘』

 『マイルノビッチ』の話から入ろう。


マイルノビッチ 6 (マーガレットコミックス)

マイルノビッチ 6 (マーガレットコミックス)


 「女子力」「かわいいは作れる」などの言葉が出てきて今や女子ははっきり「成る」もの。その要素として大きいのが恋愛ということで、モテない女子のまいるは今日も恋愛経験値を積んでいきます。現在彼氏2人目。男をどんどん替えていくというのは吉住渉『ランダム・ウォーク』なんかを想い出しますが、あれより先の文脈に沿った今風な漫画。


 女子の社会化プロセスとしてその一つ手前の段階は最近だと『おおかみこどもの雨と雪』が描いています。これを以前「黒ロン化」と呼びました(関連:『おおかみこどもの雨と雪』が黒ロン映画だった - 水星さん家)。

 黒ロンは生まれながらに黒ロンなのではなく、黒ロンもまた女子同様に「成る」ものなのです。

 さて女子が髪を切ること(ショート化)には「自立」的なイメージが伴いますが、では伸びる・伸ばすこと(黒ロン化)のイメージとはなんでしょう?髪が伸びて「成る」黒ロンにはどんな意味を見出せるのでしょう?

 それは一つにストレートヘアが象徴する「まっすぐに変わらないこと」「そのままの想いを積もらせること」です。有名な「失恋で髪を切る」に伴う逆のイメージとなります。

 そういう視点で見たとき『四月は君の嘘』4巻の井川絵見さんは紛うこと無き黒ロンと言えるでしょう。


四月は君の嘘(4) (月刊マガジンコミックス)

四月は君の嘘(4) (月刊マガジンコミックス)


 絵見の演奏中に挟まれるエピソードで明らかになるのは、絵見のピアノの原体験・原動力になっているのが有馬公生の初公演だったというもの。多才で他にいくらでも道のあった絵見は公生に憧れピアニストの道へ足を進めます。井川絵見5才、ジャングルジムの上での決断でした。
 ところが11才の秋、指導者である母親の死をきっかけに公生はピアノをやめてしまいます。以降の絵見はモチベーションが落ち、コンクールの結果も振るいませんでした。
 その公生が再びピアノに帰ってきて同じコンクールで演奏する、というのが4巻の話。気分屋の絵見は毎日ちょっとしたことで演奏に影響が出てしまいますが、2年振りに有馬公生を前にして集中が高まります。
 日本刀が美しいのは斬ることだけに特化された様が美しいのと同様に、有馬公生に、有馬公生を戻すことに集中した絵見は演奏する前、舞台に立つまでにすでに異性同性大人子供、見る者みなが息を飲み魅了される美しさ。その裏には公生への積年の想いがピアノに集中されたことがあり、日本刀のように美しい日本美人、黒髪ロングストレートはここに誕生しました。



 5才の絵見には「音楽の楽しさを体現しているかのよう」に聞こえた公生のピアノは、その後母親に叩き込まれた正確無比の「ステンレスの様なピアノ」に姿を変えます。コンクールでは負け知らず、同年代の相座もライバル視するその公生のピアノを、しかし絵見は認めません。公生が変わってしまっても絵見は変わらず初めて聞いた公生のピアノを「本当の有馬公生」と呼びます。

 公生に「戻ってこい」と強く訴える絵美のピアノ演奏。強い想いを乗せた演奏といえば『WHITE ALBUM2』冬馬かずさを想い出します(あのEDとかさ)。



 「無限の可能性のある未来を捨て」「想いは全部ピアノの込めた」絵見の演奏。黒ロンには無限の少女の未来と積年の想いが詰まっているのです。

 人を斬るだけに特化した日本刀に美を見るように、現在の公生を否定し、かつての公生を戻そうという強い想いを乗せたピアノは、公生だけのための演奏は周りをも巻き込みます。ましてそれが本人に届かぬわけもなく、日本刀の様な黒ロンがステンレスの様なピアノを斬ります。