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『常住戦陣!! ムシブギョー』 愛するもののために生きるということ

 『羊のうた』に水無瀬さんという医師が登場します。この人は学生の頃、千砂さんに心を奪われ、その後の人生を賭けて彼女を守ろうとします。
 家族のような付き合いの水無瀬にも、高城家の人間ではないことから千砂さんは一線を引いており、結局それが消えることはありませんでした。
 最後に水無瀬さんが千砂さんについてこう言います。

羊のうた 1 (幻冬舎コミックス漫画文庫 と 1-1)

羊のうた 1 (幻冬舎コミックス漫画文庫 と 1-1)

彼女の存在は僕の人生に色濃く影を落としながら実体は決して手に入らなかった
そういう生き方を僕は選んだ
僕は………絶対に消えない影を手に入れたんだ
(『羊のうた』)


 例え自分に振り向かない相手でも、幸せを願いそこに一生を賭ける。
 今週の『常住戦陣!!ムシブギョー』はそれを想わせる展開でした。南町奉行大岡忠相は将軍の命を受け、蟲奉行様の力を取り戻す旅の護衛に付きます。



 私情を介せず将軍からの命を遂行すること。それが武士として大岡の常でした。

――思えば、いくつかの選択肢があったはずだ。


 ところが大岡は将軍より受けた命である蟲奉行様の護衛を主人公・月島仁兵衛に任せ、自分は敵の大将である真田幸村と戦う道を選びます。
 ちょっと十勇士……じゃなくて十傑蟲が楽勝だったから油断してましたが、幸村はさすが格が違いました。蟲奉行所の面々と比べても遜色ない実力の大岡は、幸村の一撃であっさり左肩を奪われます。

 幸村の実力を判っていた大岡の目的は始めから時間稼ぎでした。


 大岡の知る蟲奉行様は死人のように己が宿命にのみ生きる人でした。しかし道中、仁兵衛と過ごす蟲奉行様を見た大岡は驚きます。それは「理」に徹し生きる自分よりもはるかに人間的な蟲奉行様の姿でした。

 楽しそうな蟲奉行様と仁兵衛の周りを動かす前向きな力。二人を目にした大岡は、はじめて私情に揺れます。


 そもそも今回の旅の目的は蟲奉行様が本来の力を取り戻すこと。しかしそうなれば蟲奉行様にはもう誰にもふれられなくなる。つまり蟲奉行様にとって仁兵衛と過ごせるのはもうこれが最後なのです。大岡が命を賭してまで守ろうとするのは、その最後が一秒でも一瞬でも長く続くこと。


――だから…もし……
私が刀を一振りする度に、蟲奉行様…「お付きの方」と月島殿が共にいる時間を…
僅かでも、増やす事が叶うのならば…


 蟲奉行様のために生きる事が自分のために生きる事になる。「理」に徹していた大岡が「情」に傾く瞬間、きっと消えない影を手に入れたのでしょう。

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 ムシブギョー、アニメも始まってます。羽衣狐様フォロワーの蟲奉行様の登場はしばらく後の話になりますが、蟲奉行様や大岡の心を動かした仁兵衛の超絶いい子っぷりは序盤から通してある、この作品の面白さです。