今週の黒ロン:『月影ベイベ』

 東京からやって来た転校生・蛍子はなぜか地元の伝統芸能”おわら”の踊りが巧い。それを周囲には隠そうとする蛍子。どうやら踊りは彼女の秘密と関わり深いらしい。



 『坂道のアポロン小玉ユキの新作は、地方の町の少年少女とそこに伝わる伝統芸能の踊りを描く『月影ベイベ』。

 謎の黒ロン転校生がやって来て話がころがる序章は、それだけ見てとれば非常にオーソドックスな話運びではありますが、どうやら蛍子の秘密が大きな事件に繋がる一大サスペンスではなく、蛍子を中心とする小さな関係内に収まりそう。すなわち地に足の着いた黒ロンストーリーになるのではないかと予測されます。

 分かりやすいストーリーに加え、あまり展開を間延びさせない良い導入の一巻。とはいえまだまだ導入で、内容的には「もっと読みたい!」という反応が自然なもの。今冬に次巻発売の予定とのことで、ストーリー的な楽しみは先に置いて、この1巻では蛍子の黒ロンが最大の見どころでしょう。

 目まで黒ベタにした蛍子の表情を描き分けており、感情が顔に出にくい黒ロンの、かすかな表情の変化を描くのがうまいのです。踊りから連想されるダイナミックな動きはないものの、向かい合う二人や距離感の描き方など細やかな表現に拘りを感じるところは、作風とも合っています。




 これは大切な人にもらったサンドイッチを大事に頂く蛍子の図。

 ものを食べるだとかキャラクターの顔をアップにするときは、顔パーツを特に描き込むなどしてキャラクターをよりリアルに感じさせ、読者をぐっと引き寄せる手法が一般的ですが、ここではそういう特別な描き込みはしていません。
 それなのにまるで間近で見ているかのように、見入ってしまいます(黒ロンだから当たり前ですが)。サンドイッチというファストフードを上品に大切そうに食べるというのがまたすばらしい。

 おわらも黒ロンも守り継いでいく『月影ベイベ』。古くある日本固有の文化が受け継ぎ受け継がれていくのが伝統芸能ならば、黒ロンもまたひとつの伝統芸能と呼べるのではないでしょうか?