今週の黒ロン:『はなとゆめ』

 『天地明察』以来すっかり人気作家となった冲方丁さんの新作『はなとゆめ』は『枕草子』の作者・清少納言の物語。

 清少納言と言えば私のイメージでは「理知的でプライドの高い才女」だったのですが、冲方さんの描く清少納言は「自己評価の低いイジられキャラ」と、なんと全然違っていてびっくり。
 そんな清少納言がなぜ枕草子を書いたかと言うと、それは全て中宮定子様のため。ということで『はなとゆめ』は黒ロン百合小説なのであります。



黒ロン!


 宮中に仕えたのが28才の時で、周りは20そこそこ。場違いを感じ気後れしてしまう清少納言は「小さく目立たず、恥をかかないように過ごそう」と心に決めます。
 ところが定子との出会いにより一変。中宮定子には「他人の才能を覚醒させる」才能があり、後に知られる清少納言の機知に富んだ応酬を促します。こうした定子のプロデュースにより清少納言の名前も宮中に知られるようになります。

 当時28の清少納言に対し、中宮定子は17と11も年下。それでも清少納言は定子様大好きで、定子様も清少納言をお気に入りです。そこには考え方の共通もありました。離婚や失恋で嫌になっていた清少納言は「最愛の人から、最も愛されるのでなければ、何の意味がない」と考えるようになります。それを美しく体現なさっていたのが一条天皇と中宮定子。定子も同じ考えを持つと知り、清少納言はすっかり定子様推しに。「中宮様最高」「中宮様マジやばい」の毎日を過ごします。

 当時の女性は髪が美しさの指標だったので黒ロン的にも、「くせっ毛に悩んでしょっちゅう付け毛をするわたし」に対し「髪も黒々として長く艶やかで、容貌は美麗そのもの、途方もない知性の持ち主」と定子様絶賛です。


はなとゆめ (単行本)

はなとゆめ (単行本)

ちなみに、『枕草子』の中で清少納言は「私なんてどうせ不細工ですから」とおどけるんですが、第三者がそういう評価を下したというくだりがまったくない。これは彼女なりの奥ゆかしさであって、実はものすごい美人だったんじゃないか、と……。今のは完全に、余談です(笑)。
はなとゆめ ロングインタビュー|KADOKAWA


 自己評価が低く定子様推しの清少納言ですが、この実は美人だった説は『はなとゆめ』を読んでいると本当にそんな感じがしてくるからすばらしいです。
 冲方さん自身は清少納言を「バツイチ子持ちのネガティブ女」で「たとえるなら、アルファー・ブロガーとして有名になった家庭の主婦が、超一流企業の広報ウーマンに抜擢された」と言っていますが、私的には少女漫画の舞台やアイドル界に憧れる女子のように感じられました。

 しかしそんな楽しい時期も長くは続きません。藤原道長の台頭です。政界で道長が力を持ち始めると、天皇の寵愛を得ている定子は辛く当たられるようになります。

 中宮定子の過酷な運命とその周りの変化。様々な人に裏切られても、「私は定子様の番人だ」と言う清少納言。そして「わたしと中宮様がともに見出した、愛しい記憶の全て」として『枕草子』を書き進めるのです。

 『天地明察』・『光圀伝』と冲方さんの時代小説は漫画化や映画化されているのですが(なんと『光圀伝』には大河ドラマ化の話も出ているとか)この『はなとゆめ』も是非メディア化してほしいですね。なにせ黒ロンですから。