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今週の黒ロン:『魍魎の匣』・『フラグタイム』

今週の黒ロン

 志水アキさんによる百鬼夜行シリーズの漫画化は以前から評判の良いコミカライズと聞いており、先日の角川Kindleセールで買い込んでいた。


魍魎の匣 1 (怪COMIC)

魍魎の匣 1 (怪COMIC)


 実は百鬼夜行シリーズは『魍魎の匣』までしか読んでいないのだけれど、『魍魎の匣』自体は3・4回読んでいる。
 シリーズの通読を目指して『姑獲鳥の夏』から読んでいくと、『魍魎の匣』で妙な達成感が生まれて止まってしまうという繰り返しを経てきたからだ(内容を忘れているため挑戦するたび第一作から読む)。だからある程度の内容を見返せる漫画版の存在はうれしい。シリーズも全てKindle版で持っているし流石にそろそろ読み通せそうだ。
 そして原作を3・4回読んだ私から見ても、評判通りの良いコミカライズと思う。
 ド派手な榎さんや気弱い関口といったキャラクター描写は若干誇張に感じるが、方向性としては間違っておらず初読でもパッと見で分かりやすい漫画的な誇張だ。
 内容は原作から比べれば驚くほど短く感じてしまい、あれだけの長さをよくまとめたものだと感心した。長さは流石に原作通りとはいかないが(いっても困る)長さによって伝えようとしていた表現は絵になっている。

 業額の真実とおどろおどろしい妖怪。認識を揺るがすような京極堂の語り。そして黒ロン。
 そう、『魍魎の匣』と言えば2人の女学生の百合な導入で知られる黒ロン作品だ。原作を『魍魎の匣』までで何度も満足してしまったのはその長さもさることながら、黒ロンから事件が始まりそして閉じる美しさにやられてしまったのだ。



 完璧な黒ロンは時に時間さえも超越した存在に思える。
 では本当に黒ロンの時間を止めてしまえたら?

 『フラグタイム』の主人公は昔から少しだけ時間を止めることができる少女。あるとき時間を止めてクラスの黒ロンの下着を盗み見ていたところ、なんと彼女は止めた時間の中で動くことができて……というのが始まりだ。余談だが百合好き餃子研究家黒ロン声優の橘田いずみさんもおすすめの漫画である。



 時間を止めることで、いつもの学校の日常が即2人だけの世界に変わる。物理的な制約を超えて、背徳的なスリリングな時間を共有できる設定が魅力的だ。
 クラスの美少女で遠い存在の村上さんを知りたいという気持ち。それが2人の時間を共有したいという気持ちに変わっていく。『魍魎の匣』の楠本頼子と柚木加菜子を想わせる百合だ。



 さて、止めた時間の中で、なぜ村上さんだけは動けたのだろう?
 作中では本人の口からその推論が語られるが、あえて私の意見を言わせてもらえれば黒ロンだからですね。

 黒ロンの伸びた髪にはその分の時間が内包されており、一見黒ロンが何より時間にあるいは過去に縛られているようだ。それでも黒ロンはそれとは別に何者にも止めることができない凛とした気高さがあり、さらさらストレートヘアに象徴される自由を感じる。

「楠本君せいぜい月の光を浴びるがいいよ。月に反射した死んだ光の中でだけ生き物は生命の呪縛から逃れることができるのさ」(柚木加菜子『魍魎の匣』)


 黒ロンは匣にも時間にも止めることはできない存在なのだ。両作品を読んでそんな黒ロンを想わずにはいられない(想え)。