映画『花とアリス殺人事件』の圧倒的な幸福感

 映画『花とアリス殺人事件』を観てきた。2004年に公開された実写映画『花とアリス』の前日譚として製作されたアニメ映画だ。


花とアリス [Blu-ray]

花とアリス [Blu-ray]


 『花とアリス』は空気感が非常に好きな映画で、蒼井優鈴木杏という美少女2人の演技がとても良い。特にトリックスターに動き回るアリスは魅力的で、映画の最後にバレエを踊るシーンは何度見ても美しい。

 しかしそれ以上にこの映画の空気感は、煩わしさを感じさせない飄々とした会話劇による。アリスは両親ともくだけた感じで核心を突かないふざけた会話をしているが、この距離感やコミュニケーションは初めて映画を観た当時理想的に思えた。今見るとかなり在り得ない感じではあるのだが、それでも不思議と嘘くささは感じない。

 時に両親の離婚や随所での数々の嘘、いじめや暴力といったものを扱いながら、『花とアリス』はじめじめとした嫌な感じが全くしない。花とアリスは通常なら怒られるようなことも何度もしているが、そのたび大人たちは独り言や勘違いで自己解決してしまう。それを見て聞いて、花とアリスは少し反省したり学んだりあるいは成長したりする。


 さて、ここまで『花とアリス』の話をしてきたつもりだが、驚いたことに実写映画とアニメ映画の壁がありながら『花とアリス殺人事件』にも同じことが言える。『花とアリス』の空気を再び感じることができる、その意味でファン向けコンテンツに止まるが、圧倒的な幸福感にあふれるファン向けコンテンツだ。

 実写イメージに近いアニメーションは、それ自体アリスの一挙一動を見て「あ、アリスだあああ!!!」という感じる出来栄えであるが、加えて『花とアリス』を観た者ならば当時の蒼井優なら、鈴木杏ならどう演じるか、というところまでイメージできる。だけでなく、道満晴明の漫画版『花とアリス殺人事件』を読んだ者ならば道満晴明の絵でイメージもできる(というかなんで道満晴明が『花とアリス』の漫画……?と、始めは思ったけれど、1話読めば道満晴明の乾いた作風は『花とアリス』の空気感と見事にマッチしているとすぐ気付く、はずだ)。そんな諸々で、『花とアリス殺人事件』については深く入り込んだ者ほど楽しめる映画なのは間違いない。

 この映画に積み上げたエピソードや怒涛の驚愕の展開、大がかりな感動を誘う物語はない。それでもアリスが走り出すシーンや2人が踊るシーン、他何気ない日常の場面でもなぜか泣きそうになってしまった。それはここまで何度も言っている『花とアリス』の空気感の再現に他ならない。

 空気感空気感としか言っておらず観ていない人には全然分からない文章になってきたが、そんなわけで(結局)『花とアリス殺人事件』は『花とアリス』を観た人が、もしくは観てから行くことをおすすめする。

 『花とアリス』へのアクセスは容易で、なんと映画公開に合わせて、過去にネット配信された短編映画(ほぼ『花とアリス』と同じ内容)が公開されているからだ。



 『花とアリス殺人事件』視聴後は、または先に映画のイメージを掴みたい方はこちら。



「キットカット」 x 「花とアリス殺人事件」スペシャルコンテンツ - YouTube


 映画には先着特典で岩井俊二監督直筆絵コンテを完全収録した「アナザーストーリー・コミック」として『花とアリス殺人事件』の後日談(つまり『花とアリス』との間をつなぐストーリー)のプレゼントがある。こちらも映画視聴後に読めばただの絵コンテからぶわっと多量のイメージがあふれてくるものなので是非併せてゲットすることをおすすめする。