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『ゴールデンカムイ』という王道サバイバル

 昨年より単行本の発売を待ちに待っていた『ゴールデンカムイ』。

 おもしろい。めちゃくちゃおもしろい。ありふれた、ありきたりな、もう飽きたはずの王道サバイバルがこんなにもおもしろい。
 そう、『ゴールデンカムイ』のおもしろさは、やはり埋蔵金探しと逃避行という昔懐かしい王道サバイバルを主軸に置いたことでしょう。


ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)


 先日大学の先輩と話していて、「『僕のヒーローアカデミア』で久し振りに王道少年漫画いいわーと思った」という話が出ましたが、王道などと呼ばれるものの主軸自体はエンターテイメントに多くに受けるもののはずで、度々王道と呼ばれるものが全く違った形で出てくることがそれを証明しています。受け手は王道に飽きているのではなく、過去の王道の要素に飽きているだけなのです。

 『僕のヒーローアカデミア』の場合はアメコミに影響を受けた作風や世界観で、「今の日本」とは若干ずらしたことが功を成して、ストレートなメッセージへの気恥ずかしさを和らげているように感じます。

 その意味で『ゴールデンカムイ』は明治末期の北海道を舞台にした歴史ものの要素も含み、またアイヌ文化をクローズアップしたことなどが「新しさ」という側面的魅力となって、話の主軸である埋蔵金探しと逃避行を十二分に楽しむことができるのだと思います。

 これら側面的魅力でも特に大きいと見ているのが「アイヌ文化のうんちく」と「迫力ある演出と顔芸」、そして「キャラクター」です。


 一つ一つ見ていきましょう。まずは「アイヌ文化のうんちく」。

 アイヌ文化を採り上げたことはそれ自体が希少で知識として面白いです。だけでなく北方を舞台とした文化のうんちくは特に狩りと食事に偏っており、埋蔵金探しの途中で自然に必然的に挿入され、それによって旅のリアリティを生み出すことにも成功しています。
 またこの必然的なうんちく挿入が、どうしても文字での説明が多くなるうんちく漫画において、漫画を気持ちよく読むスピードをじゃましないというバランスまで保っています。


 と、いうのが続いての「迫力ある演出と顔芸」にも繋がってきます。

 アイヌ文化のうんちくパートから次のページをめくるとすぐに、戦闘態勢が整った軍人が既に杉本らの捜索を始めているというハラハラさせる緩急つかせた構成と演出は読者を飽きさせません。
 ヤングジャンプらしい迫力ある、爽快な戦闘描写。それは顔芸という形でも活かされています。
 十代のキュートな少女であるアシリパが苦い物を食べたような不快な表情をとることを、この漫画は全く恐れていません。むしろ楽しんでやっています。かっこいい杉本やかわいいアシリパが全力で不快感や嫌悪感を出してしまう、そこが笑えるのです。
 こうした素直な表情の露出は、展開の起伏を作っていることに加え、逆に感情を表に出さない軍人には、恐怖が欠落した異質さも感じさせます(白目がなく黒目だけで描かれており感情が読み取れない)。


 最期に「キャラクター」。

 最近は恋愛・結婚という伝統的な生き方で失敗続きのアラサー女子が自らの生き方を模索する系の漫画が多くありますが、ストレートにこういった題材をとれることは男性向けとの違いに感じます。男性向けで、就職や仕事ができないとか結婚ができないをファンタジー要素で包まずそのまま出すのはちょっと勇気が要ります。

 いずれにせよ崩れていく伝統価値観の中で自分の生き方を模索することは男女問わず、現代を生きる我々にとって重要なテーマ足り得ます。

 そうした中で、アイヌという自らの育った伝統文化に敬意を持ち、かつ現代的な自分のスタンスも持ち続けるアシリパの生き方には憧れます(「私は新しい時代のアイヌの女なんだ」)。文化が違うからこその大胆な言動は時にかっこよく時にかわいい。

 また全く異なる文化に育ったアシリパも、アイヌの伝統文化に対する自分のスタンスは持っており、アイヌ民族の中でも現代的な考え方をしています。異なる文化に居ることで全く隔たりがあるわけではなく、相対的に読者と共感できる立ち位置に置いているのが絶妙です。

 一方で主人公の杉本は日露戦争で「不死身の杉本」と呼ばれたほどの強者で、人を殺すことにも躊躇しない軍人です。そんな彼もアイヌの少女・アシリパの前では文化の違いに驚くばかりの、相対的に読者が共感できるキャラクターとなります。


 興味深く勉強になるアイヌ文化のうんちくと、迫力ある演出に笑える顔芸。さらに魅力的なキャラクターに対しその立ち位置から共感を呼ぶことで、『ゴールデンカムイ』は埋蔵金探しと逃避行の王道サバイバルへ物語移入を誘うのです。