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今週の黒ロン:『羊のうた』から『マホロミ』へ

 2010年代を代表する黒ロン漫画と巷では有名な冬目景『マホロミ』、完結です。2010年の連載開始から4巻で完結と冬目景作品としては珍しく良いペースできれいにまとまった長編ではないでしょうか。この後に『イエスタデイにうたって』完結というまさかのビッグニュースもあるわけですが、今回は置いといて。



 かつて当ブログでは『マホロミ』は『羊のうた』のリメイクであると言いましたが、終わってみてその通り「明るい『羊のうた』」だったなと思います。明るい『羊のうた』ってそれもはや『羊のうた』ではないですね。ないんです。

 『羊のうた』から『マホロミ』へ。「作者の気持ち」「キャラクター」「ストーリー」をさらっと振り返ります。


  • 作者の気持ち

”この作品を始める時「とにかくムチャクチャ暗くて救いが無くて破滅に向かってGO!な話が描きたいんです」と打ち合わせで担当さんに言ったら「いいですねソレ、やりましょう」とあっさり決まりました(中略)当時のわたしは何が不満だったのか"世界の終わりが来てみんな死ねばいい"とかそーゆーネガティブなことばっか考えてました”
(『羊のうた』7巻あとがき)

”実際、このマンガを描く作業はムチャクチャ楽しかったのです。なんの精神的負荷も無く、こんなに楽しくていいのか?と心配になった程です”
(『マホロミ』4巻あとがき)


 『羊のうた』連載時は90年代的閉塞感から後にセカイ系と呼ばれる作品群も登場していますが、『羊のうた』もまた圧倒的に理不尽な世界で小さな関係性の中で生きるお話です。当然と言うべきか作者の冬目先生もネガティブな心情で描いていたようですが、『マホロミ』に至ってはその真逆。「なんの精神的負荷も無く、こんなに楽しくていいのか?と心配になった程」とここまで違うとは。
 この作者の気持ちはダイレクトに作品にも反映されており、『マホロミ』を「明るい『羊のうた』」にしています。


  • キャラクター

 千砂さんと真百合さんは黒髪ストレートロングハイパー美人にビジュアル的には似通っており精神的に大人びている点も共通ですが、千砂さんが「彼女の精神は17歳の少女とは思えないほど老成している」などと評され一砂以外からは畏れられているのに対し、真百合さんは「たまに祖母ちゃんと話してるみたいな気がするもんな…それがいいんだけど。外は美少女、中は老人…みたいな…」と親しみやすい感じです。

マホロミ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

マホロミ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

羊のうた (第1巻) (バーズコミックス)

羊のうた (第1巻) (バーズコミックス)

 両作品ともヒロインが物語の中心人物で、ヒロインの印象の違いはそのまま作品の印象にも影響しています。


  • ストーリー

 『羊のうた』『マホロミ』の登場人物らは、先人の残した「呪い」により動けなくなっています。『羊のうた』ではその「呪い」を一度は受け容れ、そして新たな道を進みます。対して『マホロミ』は「呪い」に対して自分なりに向き合い、自分で選んだ同じ道を進みます。

「この家に堆積していると感じていた祖母の悲しみや絶望が取り払われたような、そんな気がしたんです…。だから、わたしの戻る場所はここしかないんだと…確信したんです。」
(『マホロミ』4巻)

 この文章の始めに引用した通り、『羊のうた』連載開始時の冬目先生は「とにかくムチャクチャ暗くて救いが無」い話を目指していましたが、6年半の連載の中で心境の変化もあり、当初想定していたよりは救いのあるラストが生まれたと語ります。それからさらに10年以上が経ち、『マホロミ』の最終話は「先人の残した呪い」に対してどう向き合うか?という点できれいに救いを示したラストとなっています。ちょっと引用多すぎるので控えますが、ミキさんのラストのセリフなんかは特にいいこと言ってて、おおっと思いました。
 てなことで『羊のうた』始めかつての暗い冬目景作品の印象を上書く名作に違いないので『マホロミ』、『羊のうた』が好きだった方もラストが納得できなかった方も冬目景作品は完結してから読む派の方も、ぜひ読んでみては。


  • 黒ロン

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 余談というか個人的には本題より本題。これ『マホロミ』あとがきのキャラクターコメントなんですが、冬目先生が「黒ロン」て言ってるんですよね……。
 「黒ロン」てまあ黒髪ロングストレートの略なんですが、何年か前にツイッターであるフォロワーさんが使っていたのを見つけて主に私が拡散してきたワードで、現在も一般流通しているとはとても言えないものですので、こいつは正直びっくりでした。
 冬目先生自身はあんまりツイッターのサーチなどやってなさそうなので、インターネットにアンテナはってる編集者経由で知ったのかしらと思っていましたが、「マホロミ」でグーグル検索すると1ページ目に当ブログが出てくることが分かったのでわりと私のせいかもしれません。
 何はともあれこれだけ黒ロン好きを宣言している冬目先生ですから、まだ見ぬ次作も良い黒ロンが出てくることが期待できますね。スキあらば黒ロンっすよ!!