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『トクサツガガガ』「理解できない行動を理解しようと努める」大切さ

 今年の上半期十選の中でも最も推していた『トクサツガガガ』。下半期に入ってもその評価は変わらず、すばらしい。


mercury-c.hateblo.jp


 主人公の仲村は特撮オタクですが、特撮好きに限らず、公言できない趣味持ちの人や働き始めの若い人には頷くことも多い漫画です。そのへんについて以前書いた文章ではやや説明が不足していたために、補足です。


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 『トクサツガガガ』のストーリーにはいくつかパターンがあり、今回紹介するのはその中の一つ。「オタクから見た普通の人の理解できない行動を理解しようと努める仲村」というパターンです。

 皆さんも「飲み代に4000円もかけるとか意味わからん」だったり「そもそも飲み会をやる意味がわからん」だったり「なんで貴重な休日に会社でバーベキューなんてやるんだよ」だったり、会社における「普通の人の理解できない行動」に不満を抱く毎日のことでしょう(例示は全て筆者談)。

 こうした「(オタクから見た)普通の人の理解できない行動」に対し、理解できないとばかにするだけでも、あるあるネタとして消費するだけでも終わらないのが本作の優れた点です。

 仲村さんは特撮好きとして、オタク的なアプローチでこの理解できない行動を理解しようと努めます。

 最新のビックコミックスピリッツ掲載の第46話「吉田さんの苦手なもの」では、周りの人ほど子どもに興味が持てず、自分が「子どもギライ」なのではないかと悩む、仲村の特撮好き仲間である吉田さんの抱える悩みを解決しようと努めます。


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 仲村はまず、同じような外見のものを見て全て同じに見えるのは当然であり、番組を見る前の特撮ヒーローにそこまで興味が持てないのと同様、よく知らない子どもに興味がないのは普通、とします。

吉田「じゃあ あの抱っこさせて~とか言う人たちは…?」
仲村「私たちだってそうでしょう。」


 「私たちだってそうでしょう。」と自分たちに置き換えて理解を試みる仲村。「あいつらとは違う」となった途端、理解不能となるので、大切な考え方です。「私たちだってそうでしょう。」。ではその心は。

仲村「ストーリーもわからないのに、毎年毎年翌年の作品を楽しみにしては、積極的に情報を求めるじゃないですか。」
仲村「我々が「特オタ」なら…彼らは「子オタ」なんですよ…」


という理解の補助線を作ります。


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 仲村自身この考え方を「そうなんですよ。そういうことにしておきましょう」と言う通り、この考え方は若干無理も見えます。

 ただ、必ずしも考え方が正しい必要はなく、自分の中で納得できるかどうかが問題なので、こうした理解のアプローチを図ること自体が大切なことなのです。


 仲村のアドバイスを経て少し「子どもギライ」が和らぐ吉田さん。このように本作では「理解できない行動を理解しようと努める」ことの大切さを説き、そのために結果的には自分にもプラスになるという落としどころが描かれます。

 もちろん現実はこんなに上手く行くことばかりではなく、考えてもやっぱり理解できないことや自分にプラスにはならないことも多いでしょう。

 ただ、だからといってそこで終わってはいけない。理解しようと努めることの大切さが本作には描かれています。

 今回紹介したエピソードだけではなく、例えば最新3巻では「女子の写真映りに対する必死さ」や「週末のオシャレな過ごし方」など、本作では具体的なケースに落とし込んで何度も「理解できない行動を理解しようと努める」が描かれているため、週刊連載で読んでいて自分の身を省みることも多いです。

 はじめに「特撮オタクに限らず、公言できない趣味持ちの人や働き始めの若い人には頷くことも多い」と言ったのはこうした点からです。


 本作はこのパターンの話ばかりが続くわけではありませんが、このパターンの話だけ取り出しても同じような話を連続している感やそれによる飽きはないです。それは1話完結のエピソードでありながら、連続した大きなストーリー作りも巧みに行われているからです。

 例えばこれまでのエピソードを踏まえて見ると、今回紹介した第46話「吉田さんの苦手なもの」は、それまで偶然気付いたり、他人から教わったりしていた仲村が、この「理解できない行動を理解しようと努める」ことに自ら挑み、また他人に教えられるようになったという形で仲村の成長が描かれています。

 本作は所々に散りばめられたハイテンションなギャグだけでも楽しいですが、今回紹介した「理解できない行動を理解しようと努める」など1話のストーリー完成度も高く、さらには全体を通して1話1話仲村の成長がうかがえる点もすばらしいです。その最終的なゴールはおそらく、「親との対話」ではないかと考えられます。

 シングルマザーとして他の女の子と同じように育ってほしい想いが強い仲村の母親は、仲村の子ども時代、普通の女の子は興味を持たないような特撮作品を好む仲村の趣味を徹底的に封じてきました。仲村の特撮趣味は独り暮らしで自由を得て復活したもので(リアルな設定)、未だに母親には特撮好きであることを言えていません。

 この「親との対話」へ向かって1話1話仲村がステップを踏んでいることが分かる点も、本作の重要な楽しみの一つです。


トクサツガガガ 4 (ビッグコミックス)

トクサツガガガ 4 (ビッグコミックス)


 今回紹介した第46話は9月末発売の4巻には未収録となりますが、「ダサピンク」現象に切り込んだ回など、他にも優れたエピソードが収録されるはずです。「ダサピンク」回についてはリンク先参照。


d.hatena.ne.jp


 仲村同様「普通の人の理解できない行動」があり、しかしそうは言ってもやらなきゃいけない立場にある人にとって、理解できないことを愚かな行動としてばかにするのでも、あるあるネタとして笑いで一時ストレス発散するのでもない。「理解できない行動を理解しようと努める仲村」は非常に眩しく映るはずです。そして描かれるエピソードがどれも日常起こりうるレベルのものであるため、仲村の考え方は参考になり、また自分も同様にアプローチしたいと思うようになります。

 このように本作はただ面白いだけでなく影響力の大きい、週刊連載で毎週定期的に読んでいると特に大きい漫画です。特撮好き以外の人も間違いなく楽しいので(自分も特撮はほとんど見ない)ぜひご一読を。