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今週の黒ロン:『FLOWERS春篇』

 超一級の黒ロン描きである杉菜水姫さんが自らディレクターも務めるInnocent Grey初の全年齢向けゲーム『FLOWERS』。PC版で高評価を得たものが昨年ついにPS Vitaで発売され、今月はその続編も出たというタイミングでやっとプレイできました。まずは黒ロン・ミステリ・百合と、ぼくのために作ったかのようなゲームを今更プレイしていることに対し関係者各位にお詫びと本作をプレイできたことへの感謝を申し上げます。

 Innocent Greyと言えば昭和の日本を舞台にした探偵小説な雰囲気が定番のメーカーで、『FLOWERS』も女学院を舞台にしたミステリということでプレイ前は綾辻行人の囁きシリーズのようなものをイメージしていましたが、さてはてその実態は。


FLOWERS

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  • 極上の雰囲気作りとそこで活きる美麗なキャラクター

 百合と黒ロンの相性は非常に良いですが、だからと言って決まりきった型にはまったキャラクターばかりが登場するわけではありません。『マリア様がみてる小笠原祥子さんはプライドが高く大人なお嬢様。『屋上の百合霊さん』榎木サチさんは大人っぽいが好奇心も強いお姉さん。そして『FLOWERS』主人公の白羽蘇芳は、自己評価は低いが客観的には美人で、人付き合いが苦手な内向きなタイプ。

 内向きな自分を克服し友人作りを目指す蘇芳は、アミティエという学院指定の友人制度がある聖アングレカム学院に編入します。半ば強制的に友人を作れるアミティエ制度があれば、自分でも友達ができると考えたからです。そのため主人公が内向的でいらいらするといったことはあまりないはずで、内向的な所もあくまで蘇芳の特徴として楽しめる点は非常に良いです。

 本作の極上に優れた点は何と言っても雰囲気。文学知識の多いキャラクターを多く配置しており、色々な作品や花言葉からの引用が多いこと。また女学院を舞台にした百合ということで、女子同士で髪を梳くシーンやバレエ。あざとくないレベルに女子校ドリームを挟み込むバランス感覚もハイレベルです。そしてそれらの組み合わせを危なげなく支えるのはやはり杉菜水姫さんの画力。

 髪の一本一本を意識した繊細な描き方。顔つきも普通ならもっと幼いデザインになりそうな沙沙貴姉妹まで少女なりの美しさを感じます。同じデザインで男性やあまり年の離れたキャラクターを描くと違和感も出るかもしれませんが、少なくとも今回は女子校が舞台ということでキャラクター間のデザインのムラは感じませんでした。女子校は全てが美しいドリームを絵に起こしたかのような美麗なデザインです。

 江戸川乱歩横溝正史のような探偵小説の雰囲気が強いInnocent Greyの過去作に対し、『FLOWERS』はミステリ用語(?)で言うところの「日常の謎」、殺人などの大きな事件が起きるわけではなく、日常のちょっとした不思議を推理するタイプのミステリです。

 ストーリーは7、8章の連続短編のそれぞれ最終段で主人公が推理する選択肢を選ぶことで謎が解決。各章エンディングへと続く作りです。

 問題はこの推理、というか探偵役。主人公である白羽蘇芳は特別推理力に長けている設定は無く、そのため彼女の推理はかなり知識偏重です。彼女の豊富な文学知識があるから解ける謎をプレイヤーにわたされても推理しようがない。知識に関係ない選択肢にしてもヒントがほとんどないケースが多く、とっかかりもなければ謎を解いた爽快感もない。
 当然選択肢を選ぶだけですから総当たりすれば「謎を解く」ことはできるのですが、それはミステリアドベンチャーの面白さではないよなーと。ミステリは驚愕のトリックばかりではなく、分かりやすすぎない隠されたヒントや巧みなミスリード、構成も醍醐味と考えてますので。『逆転裁判』シリーズなどの優れたアドベンチャーで遊んだ身としてはその点ちょっと残念なのです。

 ただ、この点は推理するタイプの「車椅子の少女」を主人公(探偵役)に据えた夏編では改善されるだろうと見ています。

  • その他

 ストーリー上ちょっと気になった点について。あくまではじめ友人作りを目指していた蘇芳の物語の中心が恋愛方面に向かっていくことへにやや違和感を覚えました。恋人以外にも友人はできていますし恋愛関係と友人関係を完全別に見ているわけでもないんですが、ちょっと主題がずれてしまったような印象。本作は4部作の第1作ということでこの点は次作も含めて考えたい所です。
 4部作の第1作をクリフハンガー、この場合レイニー止めと言う方が適切ですか、で締めてくるのはなかなかチャレンジングで良いですね。ただこの点もやや唐突な展開に感じたのでやはり次作をプレイしてから考えたい所。

 最初に書いた通り本作は雰囲気が極上にすばらしいのです(実際いまいちなところがあるとも書いてますが、だからと言って「本当の」評価が下がるというわけではありません。雰囲気だって本当ですし雰囲気つくりのためのテクニックや努力も評価されるべきです)。
 その雰囲気作りの一環として画面色合いの調整や書体の選択までできるのは面白い試みと思いました。意識していないだけでノベルゲーにおいて書体の影響はきっと大きいはずですので。他のゲームでも同じような設定機能あるのかしら。
 あと本作に限らずノベルゲーもどんどん携帯ゲームで出てほしいですね。Vitaならスペックは問題ないですし。動き回りながらゲームやりたい派なので。

  • 総括

 決してリアルではないが作り物めいたドラマくさい設定や背景を避け、百合の極上の雰囲気作りに注力し、美麗なキャラクターデザインをフルに活かした黒ロン百合ゲーの最高レベルのものと思います。だいぶプレイするのが遅れてしまいましたがこれから後3作も楽しめるのがとてもうれしい。