今週の黒ロン:『祝姫』

 竜騎士07さんの新作『祝姫』は黒髪ロング好きで有名なイラストレーター・和遥キナさんと組んだもの。全年齢向けのわりにえろいしえぐいですね。
 伝奇とジャパニーズホラーに少しギャルゲーのノリを混ぜ、怖かったりバカだったり感動したりをスイッチをオンオフするように簡単に切り替える竜騎士07節と、和遥キナさんの美しい黒髪ロング描写が存分に活きた世界観の良作でした。『ひぐらし』や『うみねこ』のように大量の続編が発生しない、これ1本で終わる長さも調度良くありがたいです。


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  • はじめに

 企画段階の印象は、竜騎士07×和遥キナのミスマッチ。2人も好きな作風で、特に和遥キナさんの絵が好きなのでこのゲーム買ったようなもんですが、2人の組み合わせ自体はあまり方向が合わないだろうと見ていました。
 漫画で例えるとギャグシーンや日常パートのときにキャラクターがデフォルメされることがあって。竜騎士さんの作風はそういったデフォルメされた簡素なキャラクターにテキストをどんどん追加することでキャラを加えていくタイプという印象です。
 逆にキナさんはキャラクターをデフォルメさせない。もともと情報量が多く完成度が高い絵を描くタイプという印象だったので、竜騎士さんのテキストにキナさんの絵で本当に合うのかしらとは考えていました。
 ですが、ミスマッチという言葉がそもそも釣り合わないものを組み合わせることで新たな価値を創造するファッション用語から来ているのと同じく、何かこの2人の化学反応を期待してしまう向きも自分の中にありました。
 結果的にはそれが良い形に収まったと思います。『祝姫』は『ひぐらし』や『うみねこ』のように膨大なテキスト量はとれない。あくまで1作で完結する長さに収めたことで、ちょっと竜騎士さんのテキストが足りないところをキナさんの絵の情報量でカバーしているように感じました。

  • プロローグ

 ここではキャラクター個別エピソードに入る前までをプロローグと呼びますが、そういう意味ではプロローグけっこう長いです。各キャラクターのプロローグがそれぞれあってそこから共通ルートに入る感じです。それをまとめてプロローグと呼んでいいの?って気もしますが。
 その後のエピソードに至るいくつもの布石が打たれたプロローグですが、特に印象的だったのは本編主人公である煤払涼の高スペック。顔良し頭良し武術の達人で女子力も高い。気遣いもできて人望もある最強主人公。こんな主人公であればギャルゲーの主人公補正がなくてもいくらでもモテそうな気がしますが、このゲームではそれに加え、「この女子にとって涼はどういう価値があったか?」という恋愛的な観点と、呪い(主人公補正)の3つの点から涼を好きになる説明をしているところがうまいなぁと思いました。

  • 布川莉里杏ルート

 プロローグの時点で何が起きるか大体予想でき、とっつきやすかったので一番始めにやりました。
 莉里杏は子どもの頃にアイドルの人気絶頂期を味わってしまい、今も努力して成功してもいるのだけど、それにも満足できていない。認められたい。昔のように認められたい。昔に戻りたい、という願望を持った子です。
 最近だとミルキィホームズTDの6話「キャロルの身代金」でも同じようなテーマをやっていましたが、自分の負の面との向き合いというエピソードはむしろペルソナ4を想わせ、そして相応に完成度も高いです。
 エピソード後は積極的小悪魔的にモーションかけてくる後輩として活躍し、キャラクターとしてもお気に入りです。まあペルソナ4でもりせちー好きですしね私。

  • 美濃部鼎ルート

 たぶんこの先輩が『祝姫』の一番人気になるような気がします。
 頭が良くコミュニケーション能力も高いけれど、近寄りがたい印象はなく、のんびりとしていて親しみやすい。ファンシーなお姫様願望と自立した現実的な考えを併せ持ち、望むものは「普通の生活」。
 最近の傾向だと「結婚するならこういう女性」として挙がってきそうなタイプと思います。何より今時一人称が「オイラ」ということに驚きましたが、キャラクターの印象によく合っています。
 エピソードも莉里杏に劣らぬ完成度。唐突に始まったファンシーな世界観が急転し、様相を変える竜騎士07節は健在で、始めからインパクトが強いです。エピソードが進むにつれてその空想世界が美濃部先輩の置かれた状況と重なっている事実が明らかとなり、クライマックスに至る流れは最後まで飽きさせません。

  • 春宮椿子ルート

 椿子にも先の2人と同じく裏があり、プロローグの時点で明らかになる彼女の過去は強烈でキャラクターとしては強いのですが、それが2人のようなエピソードに繋がるかは疑問でした。
 結果的には椿子ルートはそれとは別の、彼女のもう一つの裏を追う形で進み、プロローグの時点で匂わせなかったところが急に始まる後付な印象を受けてしまったために、エピソード評価は一番低いです。もしかしてプロローグの時点で布石があったのかもしれなくて、それを読み飛ばしたり忘れたりしていたら悪いのですが。
 あと椿子の庶民的なお嫁さん願望って美濃部先輩とかぶるところがあって、美濃部鼎ルートを直前にやってしまったことで椿子の印象が薄くなっている可能性があります。
 莉里杏みたいな華やかな女子が周りにいる中に椿子が1人いれば、親しみやすい子のポジションが得られるのですが、美濃部鼎ルートでも述べた通り、この先輩のキャラクターが強いのがネックだったな、という感想です。やばい全くポジティブなこと書いてないぞこのルート。

 ここに至る時点でこのゲームは6割7割終わっているはずですが、メインヒロインである黒神十重がまともに話すようになるのはこのルートに入ってからです。エピソード的に仕方ない部分はありますが、そこはちょっと惜しいですね。
 プロローグ時点の布石が過去と現在を繋ぎ、十重の謎が次々と解けていく。それによって物語の根幹に至る流れ。力技で強引にハッピーエンドに持っていくところまで含めてさすが竜騎士さん。
 そして黒神十重ルートに関してはキナさんの本領が存分に活きた黒髪ロングです。残念なことに竜騎士さんのテキストからは全く黒ロンフェチズムを感じませんが、伝奇とホラーの当然黒ロンだろうという世界観の説得力に推され、キナさんの美しい黒髪描写が映えます。
 他のエピソードにも共通して言えますが、キナさんのリアル志向のキャラクターが、竜騎士さんのちょっと浮いた記号的な描写を落ち着かせる方向に働いていて、あまりメタな感想を抱かずにお話にのめり込めたのが良かったです。

  • エピローグ

 ここでは黒神十重ルート後からエンディングまでをエピローグと呼びますが、そういう意味ではエピローグはけっこう長いです。
 そして呪いから解放された少女たちの日常がそれまでの本編以上に楽しい(もちろん本編あってのものですが)。そんな感想は『ひぐらし』のときにも同じように感じた覚えがあり、懐かしいものでした。何人かキャラクター崩壊するくらいの遊びはどれも楽しく、こういう日常パートをもっとやっていても良かったように思いましたが、『ひぐらし』『うみねこ』級に長くなっても困るのでそれはそれで良しとします。


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