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「七転八倒」の意味を塗り替える『逆襲のミルキィホームズ』

――長年愛されている本作ですが、この作品の魅力とは?
ミルキィホームズがダメダメなところですかね(笑)。このダメダメな子たちが一生懸命頑張って事件を解決しようとする、前向きなダメさというか。どんどん前に突き進んでいく感じがパワーになっているんじゃないかと思います」
週刊少年チャンピオン2016年3月10日号掲載 三森すずこインタビューより)

――みなさんの考える『ミルキィホームズ』らしさとは?
森脇:観たところで学ぶことは何一つない。今回も、その瞬間を生きるみたいなフィルムになっていましたね。
(『劇場版 探偵オペラ ミルキィホームズ〜逆襲のミルキィホームズ〜』パンフレット対談より)



  • 『Project MILKY HOLMES』における劇場版の意味

 昨日ついに『劇場版 探偵オペラ ミルキィホームズ〜逆襲のミルキィホームズ〜』が公開されました。
 ブシロードが主導するメディアミックス企画『Project MILKY HOLMES』は2010年にアニメ1期や原作ゲームが発売され、今年で6年目を迎えます。
 連続テレビアニメが毎年次々と放送され、消費されていくことが問題視されるようになってから何年も経つ中、全く新しく立ち上げた1つの企画が6年も続くというのは素人目にすごいことだと思いますし、実際はもっと大変なのだろうと予想できます。あの世界的大ヒットのポケモンでも20年なのですから。

 かつては一部の成功作でしか製作されない印象のあった劇場版ですが、最近は数々のアニメ作品が当たり前のように劇場版を製作するようになっています。固定ファンが付いていればある程度の動員は見込めるからでしょうか。
 それでも『Project MILKY HOLMES』はその他の企画が絶対に手を出さないようなことにはいくつも手を出しておきながら、劇場版だけはなぜか製作されないまま続いていました。長期シリーズとしてはわりと珍しい部類と思います。
 今回の劇場版の話が出てきたのはTD製作中とのことですので2014年のことなのでしょうが、それにしても遅いくらいです。それまで劇場版が出てこなかった理由は、大人の事情を抜きにして考えれば、誰も「劇場版ミルキィホームズ」の絵を描けなかったからではないでしょうか?

  • 簡単なようで難しい劇場版ミルキィ

 毎年のように放送されている長期シリーズのミルキィホームズが劇場版を作れないというのは、多くの方にとって疑問に思うところかもしれません。
 しかしテレビアニメと劇場アニメはものが違って、劇場アニメには劇場アニメの制約があります。動画サイトやテレビでの視聴を前提としており、30分の枠の中で毎週1話を終わらせるテレビ放送とは違って、劇場アニメは1時間以上の1話完結となり、それに見合った話作りが必要となるからです。

 またミルキィホームズはギャグアニメであり、ギャグアニメでアバンタイトル→オープニング→Aパート→アイキャッチ→Bパート→エンディング(→Cパート→次回予告)というきっちりとした流れを取り払うと、同じことをやっていてもギャグにメリハリがつかないマンネリズムを感じてしまいがちです。
 もともとミルキィホームズは30分でここまで詰め込むのかというギャグの量と、それでも崩れない絶妙なテンポの良さが評価された作品ですので、同じことを劇場版でもやると観客が疲れてしまう懸念もありました。
 ストーリー色を強く出せばこれは回避できますし、実際多くの作品がストーリーメインとしているはずですが、そのせいでギャグを抑制してはミルキィホームズの名である必要があるのかという作品になってしまいます。そのため制約のない自由な1時間以上というのは案外ミルキィホームズをやる上で大きなネックとなります。

 さらにこの6年で『Project MILKY HOLMES』は広がり過ぎました。2010年の『探偵オペラ ミルキィホームズ』から始まり、2011年の『探偵オペラ ミルキィホームズ サマー・スペシャル』と2012年の『探偵オペラ ミルキィホームズ 第2幕』は1期の続編として見られますが、ゲーム版準拠となる2012年放送の『探偵オペラ ミルキィホームズ Alternative ONE & TWO』やキッズアニメ色を強くした2013年の『ふたりはミルキィホームズ』、それら過去シリーズをうまく繋いだ2015年の『探偵歌劇 ミルキィホームズ TD』と、それぞれ世界観やキャラクターが微妙に異なります。
 劇場版ミルキィホームズとして、どのミルキィホームズを選択し何をどう作るのかはこうして難しくなっていました。

 そんなわけでやっと『逆襲のミルキィホームズ』の話ができます。この映画は公開前に冒頭7分動画が発表されています。ファンクラブイベントで事前公開された内容が、その後公式サイトで一般公開されたものです。


https://www.youtube.com/watch?v=xeNDH4PZX_Ewww.youtube.com


 冒頭7分動画では、ミルキィホームズがグンマでトイズを失いヨコハマへ帰るまでを、ふんだんに遊びを入れて、かつ各キャラクター説明などもおさらいして7分に収めるという、出だしが良すぎて心配になる勢いでした。

 「ミルキィホームズはトイズを使える」「トイズを使えるミルキィホームズは有能」「探偵と怪盗が戦う世界観」「警察もいる」「小衣ちゃんは外道」「小衣ちゃんて言うな」「ネロも下衆」「エリーえろい」「コーデリアさんお花畑」「シャロかわいい」「怪盗帝国とミルキィホームズは好敵手」といったミルキィホームズのお約束となる要素がこの7分に全て込められ、かつミルキィホームズがトイズを失うまで一気に話を進めてしまいます。
 1期1話を踏襲したいつものミルキィだけにここまで飛ばしていけるというのはあると思います。つまり冒頭からものすごい勢いで展開していても、視聴者的には「なるほどいつものパターンか」という暗黙の了解があるわけです。そのためややハイコンテクストというか、全くの初めてミルキィホームズを観る方は冒頭から見逃さないようにしておく必要があります。冒頭7分の事前公開もこういった事情があるのでしょうし、今回初ミルキィの方は冒頭7分動画はしっかり観てから足を運ぶことをおすすめします。

  • ギャグをとるか?ストーリーをとるか?

 公開前の心配事は「テレビ版のようなギャグアニメを70分続けることで飽きが来ないか?テンポが崩れないか?」という点でした。この点に関してはストーリー色を強くすることで解決が図られています。
 という書き方をすると、他のコメディ作品でも同様の手法が採られているため、特段目新しい感じはしませんが、『逆襲のミルキィホームズ』の特色はストーリー色を強くしてもギャグ色は弱くしないことにあります。同じようなギャグが続くことでストーリーの進展が止まることによるストレスを、これにより回避しています。
 ギャグはシーンの話でストーリーは全体の話なので、この2つは対置するものではありませんが、それでも「ストーリー色を強くしてもギャグ色は弱くしない」はなかなか難しいものだったと思います。不条理なギャグに引っ張られるとストーリーは破綻してしまいますし、ストーリーの感動やそこに至る積みを重視するとギャグは抑えないといけなくなります。

 公開前のトークでも「ギャグばかりやってたと思ったら意外とお話も進んでいた」ようなことを誰か言っていましたが、「ストーリー色を強くしてもギャグ色は弱くしない」。ここが劇場版ミルキィホームズという課題に対し『逆襲のミルキィホームズ』が出したアンサーです。

 もちろんこれはそれができれば誰も苦労はしないというくらい、言うのは簡単でもやるのは難しいことです。
 それができた理由は1つに沼田さんのキャラクターデザインにあります。丸っこくて可愛い沼田さんのキャラデザの強みは作画をいじれるところにあり、これにより作画で笑いをとることが可能となっています。
 冒頭7分動画を観てもらえば分かる通り、「ここまでデザインをいじっても同じキャラクターとして見てもらえる」という沼田さんの強みは、安心して作画で笑いをとりにいけることに繋がり、とても挑戦的にキャラデザをいじる映画となっています。そしてネタだけでなく作画で笑いがとれるようになったことで、ストーリー進行とギャグを並行できています。
 ギャグに関してはほぼツッコミ不在というのもギャグを抑えなくてよい理由の一つですが、シリーズ初めて小衣ちゃんのIQにツッコミが入るところには注目です。
 またストーリー上、特に説明のないシーンもあります。なぜこうなったのか?例えば冒頭7分でエリーだけ探偵服に着替えられなかったのはなぜか?など、分からなくても流れで観られるところは削って削って70分に収めた『逆襲のミルキィホームズ』は密度が高いです。それでも一通り見る分には困りません。テレビ版で培ったテンポの良さが、劇場版ではバランスの良さとして活きています。

 『逆襲のミルキィホームズ』は新たな世界観を持ち込まず、既存のもので構成したミルキィオールスター映画です。映画化というと新たな舞台への冒険になったり、新たな敵が出てきたりといった内容になりがちですが、『逆襲のミルキィホームズ』は一応後者ではあるものの、あのヨコハマ世界で起こりうるレベルのものに登場キャラクターや世界観を止めており、6年培ったミルキィホームズの世界観を壊しません。
 同時にそれぞれのアニメシリーズで微妙に異なるミルキィホームズ世界観の謎にも踏み込んだ、SF作品でもあります。懐かしいキャラクターやそういえばこんなやついたなーというキャラクターまで続々登場します。これが「劇場版としてどのミルキィホームズを選ぶのか?」に対する『逆襲のミルキィホームズ』のアンサーです。
 まさに「正解はひとつ!じゃない!!」と言ったところでしょうか。

  • 誰もが皆何かの敗者である

 手法の話はこれくらいにしてそろそろ内容に踏み込みましょう。

 「敗者」のダメダメなミルキィホームズが「逆襲」する。『逆襲のミルキィホームズ』というタイトルからしてそういう内容と予想されていましたが、実はミルキィホームズだけでなく、この映画に出てくるキャラクターはみんなが敗者です。
 本作のラスボス。かつてミルキィホームズに敗れた怪盗たち。どこまでも左遷されるG4。そして今回は珍しく怪盗アルセーヌも部下のスリーカードを失い、「敗者」としてリベンジの戦いになります。
 勝ち組負け組なんて言葉が出てきてから十年が経ちますが、誰もが何かの面で成功しており、また別の面で失敗しているという意味で、皆何かの敗者と言えるのかもしれません。
 作中に出てくる「敗者復活の宝石」は、その名の通り敗者に力を与え勝者となるパワーを与えるもの。敗者を自認するキャラクターたちは挙ってそれを手に入れようとします。そしてその中で、それぞれの答えに辿り着きます。特にシャロ(ミルキィホームズ)とアルセーヌの辿り着いた答えは、それぞれ別のものであり、そして共に感動的です。

  • 「敗者復活の宝石」はみんなの小衣の中に

 シャロがおじいちゃんから受け継いだものは「敗者復活の宝石」だけではありません。何度転んでも立ち上がる「七転八倒」の教えもホームズから授かったものです。
 『逆襲のミルキィホームズ』そしてミルキィホームズのテーマもこの七転八倒です。七転八起がポジティブで前向きなイメージなのに対し、ネガティブなイメージを伴いがちな七転八倒のイメージの塗り替えを、本作は常に行います。そしてそれは本作に限らず、ミルキィホームズが今までやってきたもの。制作スタッフがミルキィらしさを考えそれに行き着いたものということで、この点を持って本作が劇場版ミルキィとしてこれ以上なく相応しい作品と呼ぶことができます。
 例え七転八倒しようが起き上がれる。それがミルキィホームズの提示する七転八倒です。

 冒頭の三森さんの話にもあるように、七転八倒を繰り返すダメダメなミルキィホームズは、過去のミルキィホームズシリーズからの伝統です。そういう意味では『逆襲のミルキィホームズ』はそこに何一つ新しい要素を加えていません。劇場アニメでミルキィホームズをやっただけです。そして、それが新しいことです。

  • そしてそれぞれの七転八倒

 エンディングでおなじみのキャラクターたちのその後が映りますが、みなそれぞれ七転八倒している様子が伺えます。また懲りずに七転八倒する、それができる世界。ヨコハマ。美しいです。
 それを体現しているのが探偵ミルキィホームズで、だからミルキィホームズはダメダメでも街で大人気ですし、TDの天城茉莉音のようにミルキィホームズに力をもらったキャラクターもいます。
 そしてエンディングの後にはミルキィホームズと怪盗帝国の七転八倒へと続きます。

  • 繰り返される歴史と書き換えられる今

 探偵と怪盗の歴史はホームズの時代から続き、大探偵時代と呼ばれてきました。探偵と怪盗の戦い自体は同じように続く中、その意味合いは昔から変わっているようです。
 今のヨコハマで、今の怪盗と今の探偵が戦うことは、どちらかを憎しみ滅ぼすような戦いではなく、互いに認め合った好敵手との儀式のようなものです。ミルキィホームズと怪盗帝国の七転八倒はそれを示唆するもので、『逆襲のミルキィホームズ』ではミルキィホームズの中核を成す2者の戦い。6年続く両者の関係の再確認・再定義が行われました。歴史は繰り返されるけれど、その中で生きる人は変わっている。したがって七転八倒にもちゃんと意味はあるのです。
 そこに至る過程で、怪盗帝国側では怪盗アルセーヌとスリーカードの関係にアンサーが。スリーカードの怪盗アルセーヌに対する忠誠から、怪盗アルセーヌからスリーカードに対する想いが描かれた点は、本作のラストに繋がる重要なファクターであり、ミルキィホームズ史上も重要なファクターです。
 怪盗帝国の関係。ミルキィホームズと怪盗帝国の関係。これが、シーンとしても非常に美しい形で収まっています。正月の13時間一挙放送で最後に1期1話を持ってきたのはこういうことだったんでしょう。1期1話の冒頭シーンが『Project MILKY HOLMES』6年と劇場版の70分で新たな意味を伴い、再び観客の前に姿を現します。

  • 追記(3/9):タイトル解釈



  • おわりに

 思い返せば2011年に『探偵オペラ ミルキィホームズ サマー・スペシャル』を観て「こんなすごいものをやってしまったら劇場版が作れなくなるじゃないか!」と思ったものでした。
 今回『逆襲のミルキィホームズ』を観て、「こんなすごいものをやってしまったらミルキィホームズはどうやって終わるんだ!?」という気持ちです。『Project MILKY HOLMES -SECOND STAGE-』クライマックスに相応しい作品でした。
 最後に『プリパラ』のヒットで森脇監督が動けない中、このような作品を製作したスタッフに感謝を。特に劇場版を最後に『Project MILKY HOLMES』を離れる中村プロデューサーには最大級の感謝を。
 あとはこの素晴らしい映画をロングランとすべく毎週劇場に足を運ぶことだけがいちファンにできることです。




探偵オペラ ミルキィホームズ はじめまして。 (1)

探偵オペラ ミルキィホームズ はじめまして。 (1)

 あとこのへんを買うこともできました。