2016年の「橘田いずみ語録」感想

 宇都宮餃子祭り2016。その後のディナーパーティーとして『橘田いずみ餃子リサイタル2016 ~私はラー油でありたい~』という、実際行った人にしか意味が分からないタイトルのイベントが催された。


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昨年のレポートはこちら。


 参加者200名に満たないこのイベントは、リサイタルである以上に、発信力の強い、メッセージ性の強いイベントであった。本稿ではこれが200名弱にしか届かないのはあまりに惜しいと考え、その一部を紹介する。


 その日、会場では橘田さんの制作した日めくりカレンダーが全員にプレゼントされた。
 恥ずかしながらぼくは日めくりカレンダーというものを初めて見たのだが、どうやら日だけが1日1頁に書かれたカレンダーで、毎日めくることで日の確認ができる。そして(月の記載がないために)翌月も翌々月も一年間ずっと使うことができるといったもののようだ。

 その日めくりカレンダーには日の他に、橘田さんの過去の発言や想いといった言わば「橘田いずみ語録」が書かれている。これを毎日めくって見ることで、ファンの方々に楽しい日もつらい日も1年過ごしてほしい、といった内容のものだ。

 さて、このプレゼントはただ配布されただけではない。『橘田いずみ餃子リサイタル2016 ~私はラー油でありたい~』ではリサイタルに先立ち、けっこうな時間をかけてこの日めくりカレンダーに書かれた「橘田いずみ語録」の解説がされた。

 一応、カレンダーには言葉だけでなくその解説めいたものも添えられているが、そこに書かれた想いをファンのみんなに直接伝えたいといった橘田さんの想いからされたことだと思う。

 日めくりカレンダーなので31の「橘田いずみ語録」が収録されているわけだが、さすがに全て転記するわけにはいかないので、特に強いメッセージを感じた4つを紹介する。(※「たぶんこんな意味」は、説明を読んだり聴いたりした中で、自分が読み取った内容)


  • 「人生は一度きりじゃない」

たぶんこんな意味:「人生は一度きりなんだから迷うな」みたいなことをよく言うけれど、「人生は一度きり」なんて言われたら逆に失敗がこわくなって何もできなくなる。「人生は一度きりじゃない。間違ったらまた来世でがんばればいっかー」くらいの心持ちの方が、いろいろなことに思い切りチャレンジできる。していきましょう。

  • 「夢を追いかけている人がすごいわけじゃない」

たぶんこんな意味:「夢に向かって一生懸命な人はステキ」みたいな世界観には懐疑的。おそらくこの文脈の「夢」というのが非常に範囲の狭い目標のことで、こうした言説ばかりが広まると「夢」がない人は「自分も何か「夢」を探さないと」などと不安になってしまう。夢なんて何歳になってできるか分からないし、それからがんばっても決して遅くない。そして夢は「夢」なんかよりはるかに広いはずで、見つけた夢が「夢」と比べてどんなに小さくたって素晴らしい。生きていればきっと、今はなくてもいつか、社会的にステキなものと認められているような「夢」でなくても、自分にとって本当に大切な夢が見つかるはず。だから「夢」を追いかけている人がすごいわけじゃない。生きているだけで、すごい。

  • 「逃げることは悪いことじゃない」

たぶんこんな意味:うまくいかない人に対してよく「がんばれ」と言われるけれど、がんばれがんばればかりでは押しつぶされてしまう。時には「逃げることは悪いことじゃない」と、逃げる選択肢を提示してあげることで、戦うことばかりに目が行って視野狭窄になっていた頭が楽になり、冷静に俯瞰して考えられるようになる。会場では実際に逃げることを考え出したらその方が大変だったので戦えるようになったという本人の体験談も併せて話された。
(※ここ数年いじめ問題等に対して似たような発言をする著名人も見るようになったが、橘田語録の独特なところとしては、実際に逃げるのをすすめているわけではなく、今まで頭になかった逃げるという選択肢を与えることで「視野を広げる」ように誘導しているところにある、と思う。)

  • 「私はラー油でありたい」

たぶんこんな意味:ラー油は酢や醤油のように定番で入れるものではないが、たまにほしくなって、入れると味にはっきり影響が出る。その味を絶対に受け付けない人もいれば、すごく好きな人もいる。誰にでも好かれる人間になんてなれないから、誰かに好かれる人間であればいい。ラー油のように。
(ここでまさかディナーショーのタイトルにちゃんとした意味のあったことが判明)


 以上。

 全体を通して「世の中こういう風に言うけどそれは間違っている」といった独自な感覚論の展開が多く、それが強いメッセージ性を伴うことで、社会になじめない子たちへアンチきれいごとなメッセージを提供していた西尾維新舞城王太郎といったメフィスト作家たちのような印象を受けた。


 この日めくりカレンダーにはこういった名言ばかりでなく、「もっとミルキィホームズ橘田いずみにお金を落として(意訳)」みたいな正直すぎる言葉も載っている。
 しかしそれすら正直すぎる本音をオープンにした上で話したいという真摯な姿勢が感じられる。建前ばかりの大人なんて信用できないから、自分が信用できないで育った人間だから、大切なことを話す際にも本音をオープンする。そこまで意図していたかは別にして、橘田さんからはそういった印象を受けた。

 繰り返すがこのカレンダーはただのプレゼントではなく、会場でひとつひとつ語録が読まれ、本人から解説された。つまりこれは強い、とても強いファンへのメッセージである。
 おそらく普通のアイドルイベントであれば「私たちはこれからもっともっとがんばります。だからこれからも応援よろしくおねがいします」と、せいぜいが「そんな私たちの姿を見てファンの方々も日々の活力を得てください」が加わる程度だと思う。

 それがこんな具体的で強いメッセージとして発信されたのが驚きであるし、さすがにキャリアある人だと納得も感心もするし、そして「こんな大人になりたい」とも思わされた。


大人像と言えば『惑星のさみだれ』。


 このディナーショーや餃子祭り、その他の橘田さん企画イベントを見ても下手したら赤字ではないかと心配するレベルで、じゃあなんでこんなことやってるのかと言えば、「やりたいから」「好きだから」。加えて世の中に餃子の良さ百合の良さを発信していきたいのと同じように、ファンに対してもこうしたメッセージを伝えていきたいということなのではないか。

 そう気づかされるとともに、『橘田いずみ餃子リサイタル2016 ~私はラー油でありたい~』は、橘田さんがわれわれファンにとってのラー油であるように、自分も誰かにとってのラー油でありたいと。そう思わされるイベントであった。



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